AI 疲れに対処する

現在は、多くの企業が新たに AI を業務に導入していますが、終わりのない試行錯誤のサイクルに燃え尽きてしまう社員も出てきています。このブログでは、もう一度情熱を持って AI の活用に取り組む方法を紹介します。

立ち上がって同僚と笑顔で話す女性

人工知能の台頭は、ワクワクするような可能性をもたらし、ワークフローをスムーズなものにし、かつてないほど生産性を高めることが期待されています。

しかし、こうした新しいテクノロジーをすべて統合するという現実に少し圧倒されてしまうこともあります。AI は、業務を簡素化する代わりに、「AI 疲れ」という新しい事態をもたらしました。

これは、単なる流行語ではありません。AI 疲れは、業務に対する感情や、革新的なアイデアを思いつく能力にまで影響する可能性がある、現実的な問題です。Upwork 社の調査では、生成 AI を使用している人の約 80% が、「AI によって業務量が増え、生産性が低下している」と回答しています。 

S&P Global Market Intelligence 社によると、AI 活用の取り組みを一時的に停止することを決定した企業も、2024 年の 17%から 2025 年には 42% へと大幅に増加しています。また、AI ツールの使用頻度が高い人は、使用頻度が低い人に比べて、AI 疲れの割合が 45% も高いという結果になっています。 

この AI 疲れとはどのようなもので、なぜ多くの人が AI 疲れを感じているのでしょうか。

たとえば、毎日新しいダンスの動きを習うことを想像してみてください。インストラクターも曲も、毎日変わります。最初はワクワクしますが、おそらくすぐに疲れてしまうのではないでしょうか。AI 疲れはこれに似ています。速いペースで新しい AI ツールが登場して常にアップデートされると、そのペースについていくだけで大変で、深い疲労感につながります。速いペースについていく大変さだけでなく、進化し続けるさまざまなデジタル技術を学習して適応しなければならないという、終わりのないプレッシャーも疲労につながります。

新しく導入された複雑なシステムに困惑したり、次々に登場する新しいアプリケーションに苛立ちを感じたりするだけでなく、急速に変化する環境の中で自分の役割がどうなるのか不安を覚えることもあります。これは、止まることのないトレッドミルに乗って学習を続けるようなもので、物事を本当に理解したと感じる瞬間はやってきません。

しかし、こうした課題に対処する方法があります。ストレス源としての AI を、貴重なコラボレーション パートナーへと変えるための、人間中心の実践的なアプローチが数多く存在します。

AI は人間の能力を拡張するものであって、人間の重要な責務を完全に任せるものではありません。

ここからは、人間中心の AI 戦略を策定するためのアクショナブルな方法について説明します。ここで重要なことは、最初から人間のニーズと価値観を最優先しながら、AI を通じて人間の能力とウェルビーイングを高めるということです。より良い未来を築くために、AI をどのように活用すればよいかを見ていきましょう。

1.明確な制限と境界線を設定する

AI をストレス源ではなく、業務に役立つ真のパートナーにするには、明確な制限と境界線を設定することが非常に重要です。

新しい強力な AI ツールを手にすると、ついワクワクして常にそのツールを使いたくなってしまいます。しかし、どんなに優れたツールでも、過度に使用すると疲弊につながる可能性があります。AI は人間の能力を拡張するものであって、人間の重要な責務を完全に任せるものではありません。常に新しい AI 機能を統合しようと自分たちを追い込むと、「生産性の向上は、単純に業務量の増加につながる」ということに気付く場合があります。

ここで重要な役割を果たすのがリーダーです。

リーダーは、AI ツールの使用方法に関する明確なガイドラインを作成する必要があります。その目的は、進歩を抑制するのではなく、AI に対して思慮深く意図的な行動を取るということです。そのためには、AI によって純粋にポジティブな変化を起こすことができる領域と、人間特有の感情、創造力、批判的思考が高い価値を持つ領域を慎重に検討する必要があります。

こうした境界線を設定することにより、チーム メンバーは AI に圧倒されることなく、AI を効果的に活用するタイミングと方法を明確に理解できるようになります。このアプローチにより、人間の重要な責務を AI でサポートし、際限なく業務を増やすのではなく、人間にしかできない戦略的で創造的な業務に注力できるようになります。

2. 事前に確認すべき事項

新しい AI ツールを導入する前に、現在使用しているツールについてチーム メンバーがどのように感じているかをまず確認する必要があります。すでに現在の業務にストレスやフラストレーションを感じているメンバーがいる場合、そうした感情を理解せずに新しい AI ツールを導入すると、状況がより困難なものになる可能性があります。これは、床の強度を確認せずに、新しい部屋を増築しようとするようなものです。

この最初の確認は、AI 導入の是非を決めるためのものではありません。これは、スマートで効果的な方法で AI を導入するための有益な情報を収集する機会として考える必要があります。AI 導入の障害になりそうな箇所を早期に特定することにより、AI の導入方法を調整し、AI を業務に役立つ手段として活用できるようになります。

たとえば、チームが反復的な作業に多くの時間を費やしている場合、そうした反復作業を AI で処理する方法を提示すれば、チームの意欲を即時に高めることができます。

常に先を見据えながら、全体的な満足度を重視することにより、「AI は面倒なものではなく役に立つものだ」と感じるような方法で AI を導入することができます。AI をスムーズに導入して実際の課題を解決することにより、導入の初期段階で AI に対する信頼を築くことができます。チームの満足感と集中力を高めることにより、組織として新しいことに挑戦し、新しいデジタル ツールを活用できるようになります。

3.AI を積極的に試す

AI を真の意味で活用するには、AI を使用するようにチーム メンバーに指示するだけでなく、AI を使用するメンバーを実際にサポートする必要があります。組織が新しい強力なツールを導入する場合、自分のことを「ツールの導入に消極的な人間」だと思われたい人はいないでしょう。ここで重要になるのが、「プロンプトソン」などの取り組みです。

プロンプトソンはハッカソンに似ていますが、ソフトウェアの開発ではなく、優れたプロンプトの作成に集中し、それぞれの役割における AI ツールの効果的な活用方法を探るための取り組みです。プロンプトソンでは、たとえばマーケティング チームが AI ツールを使用してソーシャル メディアのキャプションをすばやく作成したり、キャッチーな見出しについてブレインストーミングしたりします。その後、優れたプロンプトを他のチームと共有します。チーム メンバーは、リスクの低い創造的な環境で AI の価値を積極的に見つけようとするため、消極的なチーム メンバーが批判的な視点を持つクリエイターに変わります。

こうした取り組みにより、AI の仕組みを理解し、AI の能力と限界を把握できるようになります。これは、人間による入力が依然として高い価値を持ち、AI を効果的に活用すること自体が貴重なスキルであることを示しています。AI ベースのツールを試しているうちに、AI で何ができるのか、将来はどうなるのかが見えてくるため、チーム メンバーの意欲が高まってコラボレーションが促進されます。

4.サポート ネットワークを構築する

AI などの新しいテクノロジーを活用する場合、孤独を感じることがあるかもしれませんが、そうした感情を持つ必要はありません。AI を活用する場合は、全員が協力することが重要です。AI 疲れを軽減するには、同じような AI ツールで新たな課題に直面しているメンバー同士の交流をリーダーが積極的に促す必要があります。お互いの経験を共有することは、非常に大きな力になります。

リーダーは、AI の課題についてオープンに話し合ったり、新しい AI ツールを使用するための有益なヒントを共有したり、協力して問題を解決したりするためのスペースを設ける必要があります。こうした交流により、大きな技術革新に伴う孤独感を和らげることができます。「すぐにすべての答えが見つからなくてもかまわない」、「AI について学ぶこと自体が楽しい」ということに気付けば、チームとしての士気が高まり、チーム内で知識を共有できるようになります。

このような方法でメンバーの交流を促すことにより、何がうまくいっていて何が障害になってるのかを率直に話し合うことができるようになります。これにより、チームの結束力と能力が向上し、AI とともに成長するための環境が整います。

AI を積極的に試してみることにより、AI の仕組みを理解し、AI の能力と限界を把握できるようになります。

5.実践的な用途を重視する

新しい AI ツールについて学習する場合、理解すべきことが多いと感じるかもしれません。間違ったツールを使用することによって不利益を被ることもあるかもしれません。しかし、全員がすぐに AI をマスターすることが目的ではありません。リーダーは、日常業務や具体的な課題に直接役立つ方法で AI を活用するようにチームを指導する必要があります。

たとえば、会議の要約に何時間もかけているチーム メンバーがいるとします。このメンバーが AI を活用して、正確なドラフトを迅速に作成できたとしたらどうなるでしょうか。または、新しいブログ記事のためのインスピレーションを探しているライターが、AI を活用していくつかのアイデアを見つけることができたらどうなるでしょうか。こうした具体的で実用的な AI の用途を重視することにより、すぐに成果を実感できるようになります。

これを実際に経験することにより、即時に自信が生まれ、AI の大きな価値を認識することができます。これにより、AI に対する認識が「複雑なもの」や「自分には関係ないもの」から「便利なパートナー」へと変わり、業務に対する目的意識が向上し、AI に対する不安が小さくなります。

6.AI による生産性向上の成果を人間に還元する

AI を活用してスマートな方法で業務を効率化すると、大きなチャンスが生まれます。では、このチャンスをどのように活用すればよいでしょうか。AI によって節約した時間をさらに多くの業務で埋めることは簡単ですが、その場合チーム メンバーは、「結局は、同じトレッドミルの上をさらにスピードを上げて走っているにすぎない」ということに突然気付くかもしれません。この状態を放置すると、本来は業務をサポートするはずの AI が、燃え尽き症候群の原因になってしまう可能性があります。

代わりに、人間中心のアプローチを採用する必要があります。これは、業務効率化の成果をチーム内で直接共有する方法を積極的に模索するというアプローチです。これは、組織内で最も価値が高い資産に対する戦略的な投資です。

いろいろなことが考えられます。たとえば、生産性の向上に対する報酬を提供したり、AI では不可能な人間にしかできない業務 (創造的な方法による問題解決、戦略的な思考を必要とする業務、イノベーションの促進など) に注力する、などが考えられます。これにより、ワークライフ バランスも改善されるため、リフレッシュしたベストの状態で業務に臨むことができます。

各メンバーが AI のメリットを実際に体感することにより、業務に対する意欲が高まり、感謝の気持ちを持った変化に強いワークフォースが実現します。チーム メンバーが「自分は評価されている」と感じ、毎日の生活にポジティブな影響が出てくると、成長とイノベーションが促進される可能性が高くなります。AI を活用して、すべてのメンバーの能力を伸ばすことが重要です。

7.人間による判断と検討の余地を残す

ペースの速い現在のビジネス環境では、即時に回答を得てタスクを完了できる AI は非常に便利なツールです。これは、業務効率という点では素晴らしいことですが、人間の高度な思考を働かせることなく、性急に結論だけを追い求めないように注意する必要があります。そのため、AI を活用する日常業務において、検討の機会を設けることが重要です。

具体的に、どのように行動すればよいのでしょうか。一旦立ち止まって AI の出力を検討することを習慣にする、あるいは組み込まれたステップにする必要があります。AI の出力を最終的な結果として受け止めるのではなく、「これは合理的な回答なのか」「どうすればさらに改善できるだろうか」「これが本当に求めていた回答なのか」などのように、批判的な視点から検討することが重要です。これにより、批判的思考という人間特有のスキルを鍛え、業務に対する責任感を保つことができます。

AI は、副操縦士として活用することが重要です。AI に操縦桿を任せるのではなく、飛行をサポートするパートナーとして活用する必要があります。

 

AI の回答が完璧でなかったとしても、そこから学んで成長するためのチャンスとして捉えることが重要です。これは、プロンプトを洗練させ、自分の判断力を向上させるためのチャンスです。このように意識的に立ち止まって検討することにより、AI は人間の貴重な洞察力を必要としない安易なツールではなく、最適な方法で業務を行うための便利なツールになります。

8.「人間を介在させる」という原則を実践する

AI を活用した職場環境を構築するために重要なことは、「AI に操縦桿を任せるのではなく、常に飛行をサポートする副操縦士として活用する」という考え方です。AI に対する Workday のビジョンは、「AI が人間をサポートし、人間の能力を拡張する」というものです。私たちは AI を活用してより多くの業務を処理しながら、自分の能力を伸ばしていくことができるのです。

Workday の目標は、常に人間のニーズと価値観を AI ツール設計の中心に置きながら、純粋に人間の能力を伸ばす AI ツールを開発することです。膨大な量のデータ処理や、定型的なプロセスの自動化などを AI に任せれば、創造的な方法による問題解決、戦略的な思考を必要とする業務、メンバー間の交流など、価値の高い業務に注力できるようになります。このように、AI と人間特有の能力を組み合わせることにより、高い相乗効果が生まれます。

この考え方は、すべての企業にとって賢明なものです。単純に、正しいと感じたことを行うということではありません。「自分は評価され、サポートされている」と感じたチーム メンバーが、AI を活用して自分の才能を伸ばすことにより、意欲が高く変化に強いワークフォースが実現します。このアプローチには、新しい AI の時代に社員と会社がともに成長できるという大きなメリットがあります。

AI 疲れをなくすために

AI は、非常に強力なツールです。日常業務を効率化して価値を高める可能性にあふれています。しかし、ここまで見てきたように、AI の導入と活用を慎重に進めないと、AI 疲れにつながってしまう可能性があります。常に適応することが求められるため、創造力だけでなく、士気も低下する場合があります。

しかし、これを回避する方法は存在します。人間を最優先し、新しい業務方法を慎重に取り入れることにより、AI を理想的なパートナーとして活用できるようになります。

そのためには、単に AI に業務を任せるのではなく、AI で人間の強みを伸ばすための協調的な環境を構築することが鍵になります。最初に新しい AI ツールに対する期待を明確に定義し、AI に圧倒されないようにする必要があります。また、AI ツールを導入する前に、チーム内で現在使用しているツールの満足度について確認するのも効果的な方法です。

プロンプトソンなどを通じて AI を試してみることにより、強力なサポート ネットワークが構築され、AI の導入がスムーズに進んでいきます。AI で日常的な問題を解決するための実用的な方法を重視することにより、AI の真価を理解できるため、AI に対する信頼が構築されます。

もう一歩踏み込んで考えた場合、AI によって節約した時間と労力を各メンバーに還元することが重要です。具体的には、AI によって節約した時間と労力を、創造的な思考を必要とする業務や戦略的なプロジェクトに割り当てる必要があります。あるいは、単純にワークライフ バランスを改善するだけでもかまいません。ワークフローを設計する際に、一旦立ち止まって AI の提案を批判的に検討するための機会を設ける必要があります。 

AI の潜在能力が最も発揮されるのは、私たちが AI の真価を認識したときです。AI の導入と活用がチームにどのような影響を与えるのかについて、詳しく確認する必要があります。人間中心の未来のために AI 環境を慎重に構築することにより、誰もがワクワクしながら AI を活用できるようになります。

すでに 80% を超える企業が、AI エージェントを活用して人間の潜在能力を最大限に引き出しています。約 3,000 人のグローバル リーダーによるインサイトが記載された最新のレポートでは、楽観的な考え方で AI によるイノベーションを促進する方法を紹介しています。