スキルベース人財マネジメント入門 ─ 多様化するワークフォースと人財戦略の未来

スキルベース人財マネジメントとは何か?多様化するワークフォースと AI 活用時代に対応する新しい人財戦略について、具体的な実践方法と成功の鍵を解説します。

A photo of a business professional with their arms crossed.

AIとギグワーカーが主役になる時代、組織がスキルベースで“人”を見るべき理由

従来の企業活動において、業務の中心にいるのは会社が直接雇用する従業員でした。それは現在でも変わりませんが、昨今の労働市場では、派遣社員、契約社員、さらにはいわゆる「ギグワーカー*」など臨時の従業員も増加しています。こうした背景から、職種や契約形態に囚われることなく、人間のワークフォースをスキルベースで統合的に管理していきたいというニーズが高まってきています。今や、「誰がどのスキルを持ち、どの役割を担えるか」が人財マネジメントの軸になりつつあるのです。

ギグワーカー:「ギグワーカー」とは、正規雇用ではなく、案件ベースで契約を結ぶ業務委託型の働き手を指します。特定の企業に属さず、デジタルプラットフォームなどを介して自身のスキルを提供する形態が主流です。

そして、多様化する「人間」のワークフォースに加えて、AI の活用も注目されています。個別の AI 機能にとどまらず、自律的に行動する AI エージェントの可能性にも期待が寄せられています。2025年6月4日には、AI の研究開発・利活用を適正に推進する AI 新法 (人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律) が公布されるなど法整備も進み、AI は私たちの日常やビジネスにおいて、不可欠な要素となりつつあります。

このような潮流は、グローバル市場における調査結果からも裏付けられています。

  • 正社員と外部人財を一体的に管理するために一層の取組みを必要としている:80% 
  • 生成 AI を活用している企業が、2025 年中に AIエージェントを展開する見込み:25%
  • ビジネスリーダーが、スキルベースのアプローチが組織の経済成長を向上させると考えている:81%

こうした背景を受け、これからの人財マネジメントにおいては、「スキル管理」を軸としたアプローチへの関心が世界的に高まっています。

スキルベース人財マネジメントに立ちはだかる課題

世界的な注目が高まっているにもかかわらず、日本における自発的なスキル開発への意欲は、他国と比べて著しく低いことが、2025 年 5 月に経済産業省より発表された「Society 5.0 時代のデジタル人材育成に関する検討会報告書:スキルベースの人材育成を目指して」に報告されています。

背景には、個人がスキルアップする目的、目標が不明瞭であることや、企業側もスキルの評価方法や処遇への反映方法を定めきれていないことがあると考えられます。

さらに、時代の急速な変化によって、過去に必要とされたスキルと将来求められるスキルの差が拡大し、スキル管理の難しさが増しています。

こうした課題は日本特有のものではありません。グローバルでも、将来的なスキルに関して次のようなビジネスリーダーを対象とした調査結果 が報告されています。

  • 今後 3 年間のスキル人財の不足に不安を感じている:51%
  • リーダーが組織内のスキルを明確に把握している:54%
  • 将来の成功のために今日の組織内のスキルが必要:32%

スキルベース人財マネジメントの実践方法

では、スキルベースの人財マネジメントを実践するにはどうすればよいのでしょうか。ヒントになるのが次の図に示す枠組みです。

まず、必要な人財像を描き、要員計画を策定します。その中で必要なスキルの需要を特定し、同時に、現状の人財のスキル (供給) を可視化します。そして、スキルの供給と需要とのギャップを分析し、その差を解消するための計画を立てていきます。

ギャップを解消する手段としては、従業員を需要に合う人財に育成すること、従業員の社内異動、外部からの採用、AI などのデジタルワークフォースを活用した自動化などがあります。計画策定後は、実績を突き合わせて再びギャップを分析し、進捗を管理します。計画、実行、分析というサイクルを継続的に回していける一貫した仕組みを用意できるかどうかが、組織の成長を左右するといえるでしょう。

従来の人財マネジメントでは、スキルギャップの解消は主に人的リソース (育成・採用・異動) に依存していました。しかし今では、AI 技術の進歩により、業務そのものを自動化してスキル需要を減らすという新たな選択肢が加わっています。では、スキルマネジメントにおける AI はどのような特長を持ち、どう活用できるのでしょうか。

スキルマネジメントにおけるAIの具体的な活用法

前述の通り、スキルギャップを解消する手段の一つとして、AIなどのデジタルワークフォースの活用が挙げられます。AIは人間の働き方を進化させ、生産性向上を支援する重要なツールであり、ワークフォースの一員として活躍することが可能です。

そのような AI には以下のような特長が求められます。

  • 文脈を理解できる: 組織内に蓄積された様々なデータを収集し、そのデータの処理や蓄積される背景などの文脈を理解して、インサイトを提供できる
  • 外部のシステムとも連携できる: 必要に応じて外部のシステムと連携してデータをやり取りできるような拡張性がある
  • 信頼できる:セキュリティが堅牢で、データが信頼できる。また AI のアウトプットに対して参照したデータや AI モデルが確認できる

スキルマネジメントにおける AI の活用例として次のようなものがあります。

CHRO向けには、AIが組織全体のワークフォースに関するインサイトを提供します。離職率や採用率、パフォーマンス、多様性などさまざまな指標を分析し、特定の指標が低い部門や急速に悪化している部門をAIが特定し、改善の余地がある箇所として提案します。スキルに関しても、従業員の現状のスキル傾向や前年との変化を可視化し、必要な施策や改善策の提案を行います。

一般の従業員の活用例としては、自分のスキル、将来身につけたいスキルやキャリアなどを登録しておくと、そのギャップを埋めるために受講するべきラーニング、資格などを AI がレコメンドします。さらに、習得すべきスキルやキャリアの方向性についてもレコメンドすることがあります。

マネジメント層は、管理するチームの成長を支援するためにAIを活用できます。AIは、メンバーの成長に役立つ社内タスクフォースの提案や受講すべきラーニングの提案を行い、マネジメント層はそれをもとにメンバーに働きかけたり、対話の機会を設けたりして、次のアクションにつなげることが可能です

まとめ:スキルでワークフォースを管理する

ビジネスの急速な変化に対応するためには、正社員も外部人財も含めて、スキルを軸にしたワークフォース管理が必要です。現状のスキルと将来必要になるスキルのギャップを分析し、その差を埋めるための施策を実行しながら、人財戦略を継続的にアップデートすることを目指していきましょう。

実践においては、まず組織内の現状スキルを把握し、事業計画と照らし合わせて将来必要なスキルを特定することが出発点となります。その上で、育成プログラムの設計や、外部採用とのバランス検討、AI ツールの活用について検討することが重要です。

スキルベースの人財マネジメントは一朝一夕では実現できませんが、今から始めることで、変化の激しい時代に競争優位を築く組織へと成長できるはずです。

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