収益、利益、売上、キャッシュフロー。こうした指標はこれまでビジネスの成功を定義するものでしたが、現在急速な進化を遂げています。最近では、未来志向の重要業績評価指標 (KPI) を併せて利用するエグゼクティブが増えています。

顧客の生涯価値 (CLV)、顧客の売上維持率 (NRR)、顧客満足度 (CSAT) など、最高財務責任者 (CFO) は財務以外の指標を活用し、組織の将来的な経営状態や採算性を予測するようになっています。特に注目すべき点は、データドリブンな消費者の増加への対応として、顧客重視の指標が使用されるようになっていることです。

MIT スローン大学院のデジタル経済イニシアチブ (Initiative on the Digital Economy) の特別研究員を務める Michael Schrage 氏は、Fortune 社と Workday が主催したバーチャル パネルで次のように述べています。「あらゆる顧客がポケットやバッグにスーパーコンピュータを携帯するようになったことで、企業がデータを分析する方法や人にアプローチする方法は変化しています」 

財務リーダーは、より広範かつ包括的な KPI を使用することで、変化が起きてから事後対応するのではなく、先を見据えて戦略的な意思決定を行えるようになります。Schrage 氏は、単に組織の誤った行動を明らかにするだけの KPI ではなく、今後の予測に役立つ未来志向の KPI が重視されるようになっていると指摘します。「前者の KPI はあまり組織の役に立たない」と、彼は述べています。 

進化する CFO の役割についてディスカッションを行ったこのパネルには、Levi Strauss & Co. 社のエグゼクティブ バイス プレジデント兼 CFO を務める Harmit Singh 氏、Gainsight 社の CFO を務める Alka Tandan 氏、Workday の財務担当バイス プレジデントである Kae Arima も参加しました。デジタル時代に KPI がどのように変化しているか、そして CFO がどのように物の見方を変えていく必要があるかなどが話し合われました。 

どの領域が収益を生み出すか

データの収集や分析が容易になる中、ビジネスリーダーは業績関連のインサイトを得るために、さまざまな測定、ツール、分析を活用できないか模索しています。また、企業全体の KPI ポートフォリオを評価し、各指標の関連性を確認しています。たとえば、エンプロイー エクスペリエンスが向上すると顧客の生涯価値が高まるかどうか、これら 2 つの KPI は最終利益にどのように影響するか、などです。 

より広範囲にわたって KPI を検討することで、リーダーは最も価値のある成果を生み出している領域を理解することができます。たとえば、総顧客維持率だけでなく NRR を活用することにより、リーダーは動きの少ない顧客セグメントと成長している顧客セグメントを把握し、その成長を促すために何が必要かを特定できます。

財務リーダーは、より広範かつ包括的な KPI を使用することで、変化が起きてから事後対応するのではなく、先を見据えて戦略的な意思決定を行えるようになります。

「特に、コストが大幅に上昇しており、新規顧客の獲得に多くのコストがかかる領域では、既存の顧客ベースを重視してその成長を促す方がはるかに効率的です」と、Tandan 氏は述べています。

データをより総合的に把握できると、リーダーはビジネス目標の達成に大きく貢献しているチームを特定しやすくなります。たとえば、顧客の生涯価値の拡大に営業、カスタマー サクセス、オペレーションがどのように貢献しているかを判断することで、今後の戦略や投資の意思決定に役立つインサイトを得ることができます。

具体的にどのように数値化するか

これからの CFO は、成功をもたらす要因を積極的に特定し、その要因に基づいて組織が KPI を更新およびモニタリングできるようにする必要があります。そのためには信頼できるリアルタイムのビジネス インテリジェンスを活用できる必要がありますが、多くの組織ではデータを自由に利用できません。 

「顧客の生涯価値などのデータの場合、財務部門は営業部門やマーケティング部門からデータを提供してもらう必要があります。これは必ずしも容易ではありません」と、Arima 氏は述べています。 

Singh 氏によると、Levi’s 社では彼の入社当時、詳細にカスタマイズされたシステム、アプリケーション、製品が使用されていました。各領域には独自のエンタープライズ リソース プランニング (ERP) ツールが存在し、同社は 10 を超えるデータ ウェアハウスを保有していました。 

「多くのデータは分離されていました。従業員は異なる ERP を使用しており、これらの ERP は相互に連携されていませんでした」と、Singh 氏は述べています。彼は当時、単一の ERP システムに移行することを会社に提案しましたが、そのような提案は今後のキャリアの妨げになると示唆され、まず会社の業績回復に注力すべきだと指摘されました。そこで、彼はひとつのウェアハウスにデータを移行しました。これは現在、単一のクラウドベース ERP システムに変換されています。 

Singh 氏は次のように述べています。「ERP の成功を推進するのはテクノロジーではないことを、テクノロジー チームに伝え、大きな投資になるため取締役会にも伝えました。データやデータ ガバナンスがもたらす力が推進力となるのです」

誰がデータを所有するか

リアルタイムのデータ プラットフォームを使用すると、現場のパフォーマンスも大幅に向上できます。Singh 氏は次のように述べています。「私たちは小売企業を介して消費者と接触することも、当社の店舗で直接対面することもあります。そのため、当社の販売員がデータを活用し、データに基づいて意思決定を行えるようにすることは不可欠です」 

顧客の購入動向に関する情報を社員に提供することで、社員はアップセルの意思決定を的確に行うことに専念できます。店舗マネージャは、店舗で改善すべき領域を特定し、改善方法を見つけることができます。また、店舗マネージャはうまく機能している領域とそうでない領域を企業のアプリに入力し、販売員が確認できるようにすることも可能です。

CFO は、成功をもたらす要因を積極的に特定し、その要因に基づいて組織が KPI を更新およびモニタリングできるようにする必要があります。 

しかし各チームが顧客データや業務データを活用できるようにするためには、強固なデータ ガバナンスと企業全体の同意が必要です。一方、誰が特定の KPI を所有し、どのように共有し、誰が責任を負うかについて、リーダー間で意見が分かれることは少なくありません。そこで、CFO にはリーダー間の意見を調整して対立を解決するという大きな役割があります。Gainsight 社の場合がそうでした。Tandan 氏によると、彼女は現在、データ検証の責任を担っています。そうすることで、エグゼクティブ チームが利用可能な唯一の正しい情報源を確保しているのです。

同社はまた、重要な指標に対して責任を負うエグゼクティブを特定し、KPI とその責任を担うエグゼクティブに基づいて、各社員向けに簡潔な戦略的計画を作成しています。

「これにより、エグゼクティブの配下にあるすべての社員一人ひとりが 明確な [指標] を持ちます」と、Tandan 氏は述べています。

KPI を定期的にレビューし、ビジネスの現状と合致しているか確認することが重要だと Tandan 氏は指摘します。そうすることで、CFO は急速に変化する経済環境に組織が継続的に対応できるように導くことができます。

Fortune 社の Web キャスト「The Emerging CFO: Rethinking KPIs in the Digital Era」をご覧ください。

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