人事部門に AI ファーストの考え方が必要な理由

どの大企業でも、人事部門の変革を進めているようです。しかし、絶え間なく繰り返される変革で何が達成されたのでしょう、本当に何かを解決できたのでしょうか?

この記事は、HiredScore.com のブログに 2023 年 12 月 28 日付で公開されたものです。

人事部門の変革が、最近話題のようです。でも今に始まったことではないですよね?経済が先行き不透明な時代となり、どの企業の重役会議においても生産性が重視され、社員と雇用主の関係が大きく変化しています。AI の本格的な普及が見込まれる今、企業が「何をすべきか」最高人事責任者に助言を求めるのは当然と言えます。 

その結果あらゆる大企業が、人事部門の変革を目的としたイニシアチブに取り組んでいるようです。企業は何かを変える必要性に気づいているものの、何を変えるべきなのかは依然として分からないままです。 

それゆえに、企業は新たなテクノロジーの導入や、人事担当者の分析スキルの向上、共有サービス モデルの構築、エンプロイー エクスペリエンスを重視した取り組みなど、従来の人事部門の変革で行ってきた具体的な対策に引き続き注力しています。しかし、変革を絶え間なく繰り返したところで、何を達成したのでしょうか?本当に何かを解決できたのでしょうか?

もし生産性があまり向上せず、ほとんどの社員がそこそこの意欲で仕事をこなしている場合、人事部門では何が起こっているのでしょうか?

人事部門の変革についてデータから分かること

米国労働省労働統計局 (BLS) により、非農業部門の長期的な労働生産性が 1947 年以来最低の水準であることが認められました。

社員エンゲージメントは低迷を続け、平均値に向かって後退しており、米国の従業員のわずか 32% しか仕事に対して意欲を感じていません。

このように生産性があまり向上せず、ほとんどの社員がそこそこの意欲で仕事をこなしている場合、人事部門では何が起こっているのでしょうか?あらゆる取り組みが行われているにも関わらず、人事部門の変革の成果は些細なものにとどまっています。これはなぜでしょうか?

McKinsey 社は、2022 年のレポート「Reimagining HR」 (人事部門の再構築) で、変革とは主にデジタル化、アジリティ、優先順位付けであることを明らかにしました。

また、「Questions for your HR chief」 (人事責任者への質問) (2011 年) や人財の状況に関するレポート (2012 年) など、2010 年代に McKinsey 社が公開した記事や、Deloitte 社のレポート「Business-Driven HR Transformation」 (ビジネス主導の人事部門の変革) (2011 年) を読むと、人事部門の優先事項が当時からさほど変わっていないことが分かります。この状況を踏まえると、人事部門の社員が人事部門の変革のイニシアチブに幻滅するのも当然と言えます。人事部門の社員は 10 年間、同じことを言われ、同じことをさせられているのです。

人事部門に必要なのは進化か、それとも変革か?進化と変革の違い

おそらく、人事部門の変革に関して私たちの考え方には抜けがあるのでしょう。Gartner 社はこれまで人事部門の変革を「オペレーショナル エクセレンスを推進し、より大きなビジネスの価値を創造するための人事部門の進化」であると説明してきました。しかし、最近になって文の最後に「ハイブリッド ワークの世界において」を追加したことで、再びこの話題に注目が集まっています。

この定義に些細な食い違いがあることが分かるでしょうか?「進化」と「変革」はどちらも変化を表すために使用される言葉であり、人事部門の変革について語られる時、この 2 つの言葉は同じ意味で使用される傾向があります。ただし、その意味は同じではありません。

違いを詳しく見ていきましょう。 

変革」とは、「進化」よりも突然かつ劇的な変化で、重要なイベントや状況の変化によって引き起こされ、物事の仕組みに大きな変化をもたらす傾向があります。これと対照的なのが「進化」です。「進化」とは、「変革」よりも段階的に、徐々に起こる変化で、長期にわたって小さな変化が積み重なっていくことで生じるものです。では、企業が人事部門の変革の優先順位について考える場合、企業は変革を起こしているのでしょうか?それとも進化しているのでしょうか?

このようなイニシアチブはすべて進化です。漸進的な変化をもたらし、業務を移行させながら、同じことを繰り返しています。物事の仕組みが根本的に変わっておらず、社員の成果があまり変わらない理由はおそらくそこにあるでしょう。

ただし、変革をもたらすテクノロジーが人事部門に導入された今、進化すればいいという考え方で進める人事の業務プロセスは、遠からず時代遅れになるでしょう。先日、ハーバード・ビジネス・スクールの教授であり、「Managing the Future of Work」(仕事の未来の管理) イニシアチブの共同ディレクターも務める Joe Fuller 氏と話す機会がありました。ビジネス界において、AI 主導の変革というのは前例がなく、近年の変革を考えても、その世界的な広がりと規模の観点から、匹敵するものは存在しないと、同氏は強調しています。 

工業化時代や情報化時代に適切だった変化のモデルは、AI 主導のビジネス界の現代においてはもはや予測できないものとなっています。ChatGTP といったツールの普及率から示唆されるように、この新しい時代は、J カーブ、すなわち短期間のうちに一度下降し、その後大幅に上昇して利益をもたらす方向に推移することが見込まれます。

では AI の導入において、J カーブを描く変革とはどんな変革なのでしょうか?

大学院で人事管理の教授として教鞭をとっているため、テクノロジーのおかげで、教育者が学習成果を評価する際に大いに役立つツールが少しずつ公開されていることに私は気づきました。そうしたツールの例として、剽窃チェック、論文のオンライン提出、ディスカッション ボードの活用から、教育体験をデジタル化する解決策 (多くの組織のデジタル化計画と多くの点で類似しています) に至るまで、様々なものが挙げられます。この 10 年間のうちに、ツールが少しずつ展開されてきたので、教師も学生もこういったツールに適応でき、教室での学習体験について、抜本的なデジタル化が実現できました。

それなのに、ChatGPT が教育界にもたらす創造的破壊については、誰も全く準備ができていません。書面で提出される課題は、すべて ChatGPT を使って作成されている可能性があります。また、適切なプロンプトが入力された場合、剽窃を確認するツールを使っても剽窃を検出できない可能性もあります。その場合、特にリモートやオンライン学習において、私たちは学習の成果が学生本人によるものか、そうではないのかを見極められるでしょうか?雇用主は資格認定プログラムの実績をどこまで信頼できるのでしょうか?すべての課題が ChatGPT によって行われたものではないという保証が一切ない場合、学生がある資格を取得しているとして、その資格に見合った知識を持っていると雇用主は信じることができるでしょうか?事実、多くの人々が 2023 年第 2 四半期に ChatGPT の利用率が 10% ~ 15% 落ち込んだ理由は、学校が夏休みに入ったからだと仮定しています。さらに、カリキュラムの問題の答えや学習内容が ChatGTP 上で確認できる場合、そのカリキュラムを学ぶはずだった人の代わりに ChatGPT に頼ることができるのではないのでしょうか?これが J カーブの推移です。ビジネスモデルが完全に崩壊する前に、そのような状況に備え対応策を講じる時間はほとんど残されていません。

変革をもたらすテクノロジーが人事部門に導入された今、進化すればいいという考え方で進める人事の業務プロセスは、遠からず時代遅れになるでしょう。

人事部門の変革を実現するために必要なこと

すべての人事部門の変革の中心は、テクノロジー、人財、プロセス、文化です。では、人事変革のイニシアチブは、この J カーブの AI 変革に適切に対応できているのでしょうか。ここで立ち止まって考えてみましょう。

  • 導入している、もしくは導入を検討しているテクノロジーは、変革をもたらすテクノロジーでしょうか?異なるツールやインターフェイスを用いて同じことを繰り返しているだけはないでしょうか?

  • このテクノロジーを実際に理解し、進化をベースにする考え方から脱却し、変革をベースとする考え方へと私たちを変える手助けをしてくれる人はいるでしょうか?進化ではなく変革を基準とする思考を実践する人は存在するでしょうか?

  • 状況が変わるとその変化に応じて、AI を組み込んだ運用モデルを個別に用意するという世界を実現したい、という発想を、今の私たちはできているでしょうか? 

  • そうしたイニシアチブによって、ビジネス、社員、採用候補者による人事部門の評価の仕方は本当に変わるでしょうか?今後の急速な変化に備え、どのような方法で企業文化を整えるべきでしょうか?

今まさに自社の人事部門の変革に乗り出そうとしている場合にも、すでに変革を目的とした取り組みが半ばに差し掛かっている場合にも、これらの質問の答えを考えるタイミングとしてはまだ手遅れではありません。これらの質問の答えについて考える時、私はもう一人の優れた教授である Dave Ulrich 氏と先日交わした会話を思い出します。同氏は私が教えている学生たちに対して、次のような問いを投げかけました。

「人事部門や企業の経営陣が社員に与えることができる、最も重要な事柄とは何でしょうか?」と。皆様もこの問題の答えだと思う選択肢を次の中からひとつ選択してみてください。

  1. 身体的および心理的安全性

  2. 信念 (意味や目的)

  3. 帰属意識 (コミュニティや人間関係)

  4. 上記すべて

  5. 上記のいずれも該当しない

150人の学生のうち90%以上が「上記すべて」を選択しましたが、同氏が明かした答えは「上記のいずれも該当しない」でした。これは非常に巧妙な引っ掛け問題でした。大半の人事担当者は人事に関連する概念について考えます。そして人事について学ぶ大学院生は人事に関連するあらゆる概念を学習してきています。しかしながら、人事部門や企業の経営陣が社員に提供できる最も重要なものは、市場で必ず成功するような体制が整えられた企業だというのが同氏の見解だったのです。

オーケストレーションとは、これらの要素すべてを連携させ、組織的なノイズを調整し調和させ、最終的に本格的な変革の軌道に企業を乗せることです。

これを踏まえた上で、人事部門の変革について考える場合、自社のイニシアチブは、AI を推進力とする新たな市場で企業の成功を可能にする変更をもたらすものでしょうか?それとも、ビジネスの価値を提供することを妨げるものでしょうか?職務管理とポジション管理の利点と欠点を考えることに時間をかけすぎていませんか?また、この 2 つを切り替える際に必要になる新しいプロセスについて、GTM (市場進出戦略) のニーズや製品開発プロセスと一致しているかどうかを検討しないで、ただ時間をかけて考え続けているのではありませんか?プロセスの実質的な効率の悪さやテクノロジー プラットフォームの設定の制限を理由に、企業の複雑な要件やニーズを簡易化しようとしていますか?テクノロジーは意思決定の指針として機能していますか?それとも、テクノロジーは企業のニーズをサポートしていますか?

また、この機会を他の方の経験から学び、従来の「進化」的な対策すべてをこの未来の状態へと変えるための軌道に乗せる機会だと捉えていますか?こういったトレードオフを行う必要がないことを保証する AI は、真の変革と言えます。テクノロジーは背景と同化し、人財は AI によって拡張され、企業とビジネスの複雑さが称賛され、イノベーションを重視する文化が強化されます。

Workday 傘下の企業である HiredScoreでは、これを「オーケストレーション」と呼んでいます。 

簡単に言えば、「オーケストレーション」とは、複数の自動化されたタスクを単一の合理化されたプロセスに統合することです。

人事部門テクノロジーに関する場合、オーケストレーションは次のような意味を持ちます。 

  1. テクノロジーではなくビジネスの価値が最優先される状況。テクノロジー プラットフォームの導入に伴うチェンジ マネジメントではなく、すでに社員が働いている環境において社員のニーズを満たすことで、社員にビジネスの価値をもたらすこと。

  2. プロセス内の作業に従うことを心配するのではなく、何かを創造したり、イノベーションを生み出したり、つながりを築いたりすることに社員の注意が最大限向けられる状況。社員を別の社員と入れ替えることではなく、貴重な時間と注意力を最も重要なことに注げるように社員を支援すること。

  3. 組織上および業務上の相違点が排除されるのではなく受け入れられる状況。単一の人事部門運用モデルに単純化したり、そういったモデルに合わせたりするのではなく、動的で複雑なシステムでは常に生じる、入り組んだ事情や矛盾にインテリジェントに適応すること。

オーケストレーションとは、これらの要素すべてを連携させ、組織的なノイズを調整し調和させ、最終的に本格的な変革の軌道に企業を乗せることです。実質的な成果とビジネスの価値をもたらすという点に関して、オーケストレーションに勝るものはありません。

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