2025 年版 日本企業 HR モダナイゼーション実態調査:成果を生む組織に共通する 3 つの特徴
ワークデイが日本国内の大手・中堅企業の人事部門に所属する課長職以上の500名超を対象に実施した市場調査の結果をもとに、人事変革を成功に導くための具体的な方法論を解説します。
ワークデイが日本国内の大手・中堅企業の人事部門に所属する課長職以上の500名超を対象に実施した市場調査の結果をもとに、人事変革を成功に導くための具体的な方法論を解説します。
近年、日本企業は「人的資本経営」を掲げ、人財を戦略の中心に据えた人事変革を模索しています。しかし、制度改革や IT 導入といった部分的な施策だけでは十分ではなく、その結果、成果が出ずに変革が停滞している企業も少なくありません。
ワークデイが 2025 年 7 月に発表した「HR モダナイゼーション実態調査」によると、人事変革に取り組む企業のうち、明確な成果が出ていると回答したのはわずか 14% にとどまりました。
調査の結果から、人事変革を成功させるには「人」はもちろんのこと、その人々をけん引するプロフェッショナルなリーダーや専門組織が不可欠であることが明らかになっています。
2020 年に経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート」以降、人的資本経営の重要性は広く認識されるようになりました。しかし、現場では制度やツールの導入にとどまり、期待された成果を生み出せない企業が多く見られます。背景には、経営戦略と人事戦略の乖離 (かいり) や、変革を主導できるプロフェッショナルなリーダーの不在があります。
調査では、「変革を推進する人材が不足している」と答えた企業が 39%、「強いリーダーシップが欠如している」とした企業が 37% に達しました。つまり、人事変革が成果に結びつかない最大の要因は、プロフェッショナルなリーダーシップが組織内に根付いていないことにあるのです。
制度やシステムの改善だけでは解決できず、プロフェッショナルなリーダーを中心に、戦略と人事を連動させる強い推進力が不可欠です。
こうした人事変革を実現するため、データとテクノロジーを基盤に人的資本を経営の中核に据えて、制度・プロセス・データ・組織を統合的に更新する取り組み「HR モダナイゼーション」が注目されています。
HR モダナイゼーションとは、制度、プロセス、IT、データ、組織、そしてマインドセットの 6 領域を連動させ、戦略的人事を実現するための包括的な改革です。調査では、人事の成熟度を「JTC (日本的伝統型) 」「脱 JTC (変革着手) 」「ワールドクラス (先進企業同等) 」「AI-ready (人とデジタルの融合) 」の 4 段階で評価しています。多くの企業にとって、3 つ目のワールドクラスが、当面の目指すべき段階だと言えます。
典型的な例で示すと、JTC は年功序列や終身雇用、新卒一括採用といった旧来型の制度を中心とし、人事の意思決定は経験や勘に依存し、IT やデジタル活用も勤怠管理や給与計算など業務支援の水準にとどまる傾向にあります。
次の段階である脱 JTCでは、ジョブ型雇用や評価制度の改革に着手する企業が増えており、タレントマネジメントやエンゲージメントサーベイなどの個別ソリューションを導入し、一部で HRBP 制度も導入しています。制度やプロセス面では、目標管理制度の運用や報酬管理の見直しなどが進み、戦略活用目的のシステムの導入率も高まっています。しかし、これらの取り組みはまだ断片的で、データ活用も部分的にとどまり、経営戦略と人事戦略を有機的に結びつける体制は十分ではありません。
ワールドクラスまで成熟した企業は、全体の 10% に満たないものの、人事制度がグローバル基準に準拠し、ジョブグレードや評価制度を全社・全地域で統一するなど該当する企業は明確な成果を示しています。また、人事と財務が連携し、要員計画や人件費予算、業績評価を連動させた人財配置を実現しており、統合データ基盤により必要な情報を即座に活用できる状態です。
ワールドクラスの企業は人的資本を経営資源としてとらえ、データに基づき戦略的に投資を実施することで、持続的成長を実現しています。また、CHRO (最高人事責任者) を中心とした強いリーダーシップの下で、データ駆動型の人財マネジメントを推進している点も特徴的です。さらに、人事制度がグローバル基準の透明性と公平性を備え、従業員の能力開発やキャリア形成に直結する仕組みとなっています。その結果、人財データが戦略意思決定に活用され、経営と人事が密接な連動が実現されています。こうした水準に到達している企業はまだ少なく、人的資本経営における理想像を体現していると言えるでしょう。概ね「目指すべき状態」を実現している企業群だと言えます。
最終段階の「AI-ready」は、人間とデジタルワークフォースが協働し、AI エージェントを活用して人事業務や戦略的判断を支援する段階です。ここでは、漏れやダブりのないクリーンなデータ基盤が前提となり、スキルギャップの特定や育成施策のレコメンド、後継者候補の提示など、AI が具体的な提案を行える環境が整っています。現時点で、日本企業でこの段階に到達している例はほとんどありません。
日本企業の構成は概ね JTC 70%、脱 JTC 20%、ワールドクラス 10%、AI-ready は算出外でした。日本企業の多くが、過去から変化してないか、変革に着手したばかりといった段階にとどまっており、世界的な成功企業と同様の水準に達していてワールドクラスに分類される企業は、全体の 1 割にも満たないという現実が見えてきました。
反比例して、人事変革の成果を実感している企業の割合は、JTC は 4%、脱 JTC は 36% にとどまる一方、ワールドクラスの 70% と大差があり、人事の成熟度段階が進んでいるほど大きいことが分かりました。ワールドクラス企業は、明確に成果を実感していることを示しています。
調査から、プロフェッショナルなリーダーが存在しない企業では変革が断片的になりがちで、制度や IT を導入しても全体最適が図れず、成果を出すまでに至らないことが分かりました。
成果を出す企業には、共通点があります。それは、CEO (最高経営責任者) の直下に専任の CHRO (最高人事責任者) が配置され、経営戦略に深く関与し、強いリーダーシップを発揮していることです。専任 CHRO を配置している企業の割合は JTC 企業ではわずか 7% に過ぎませんが、ワールドクラスに分類された企業では 64% に達しています。
さらに、部門と経営を橋渡しする HRBP (HR ビジネスパートナー) の機能を強化し、データに基づいた人財活用を推進する体制が整っています。HRBP は、人事部門が経営や事業部門と密接に連携し、人財戦略や組織開発を通じて事業目標の達成を支援する役割を担う人事の専門職を指します。こうしたリーダーが存在することで、組織全体が長期的視点を持ち、3 年以上の持続的な変革を実現できるのです。
このように、日本企業にとって人事変革の重要性が高まる中で、それを実現するためにはテクノロジーの活用が不可欠です。現在、特に重要性を増しているのは、生成 AI の活用です。
生成 AI は急速な広がりを見せる中で、6 割の企業が AI ツールの利用に関するルールを明文化できていない状況にあります。社内で正式に承認されていないツールやサービスを、従業員が独自に利用することを指す「野良 AI」や「シャドー IT」の問題は、情報漏えいや非倫理的運用といったリスクを引き起こします。
プロフェッショナルなリーダーがいれば、CHRO と CIO が連携し、ガバナンスを強化し、全社ポリシーや教育体制を整備することが可能です。リーダーシップがリスクを抑え、AI の可能性を最大限に生かす基盤を作るのです。
今回の調査が示した最大の教訓は、日本企業が人事変革を成功させるためには、「人」そのものだけでなく、人財を導くプロフェッショナルなリーダーの存在が欠かせないということです。CHRO や HRBP を中心に、組織・制度・プロセス・ITシステム・データ・マインドセットを一体化させた体制を築き、包括的に改革を進めることで、初めて真の「HRモダナイゼーション」が実現します。ワークデイは、こうした戦略的な人事改革を支える包括的なソリューションを提供し、企業のHRモダナイゼーションを支援しています。
今後も、日本企業が経営に貢献する「戦略的人事」を実現できるよう、プロフェッショナル人財の育成と体制構築を継続的にサポートしていきます。
今回の調査は、2025 年 5 月29 日から 6 月 2 日にかけて実施され、従業員 1,000 人以上の日本国内企業を対象に、経営者、役員、課長職以上の人事業務関係者 517 人から回答を得ました。回答企業の 57% は従業員 1 万人以上で、業種は製造業が 31% と最多、役職は課長・次長クラスが 49% を占めています。
HR モダナイゼーション実態に関する調査レポートに関する詳細は、こちらからご覧いただけます。
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