ビッグ データとデータ マイニング: 大規模データセットの取り扱い

ビッグ データやデータ マイニングが話題となっていますが、両者はどのような関係があるのでしょうか?企業はデータ マイニングで未加工のビッグデータをアクショナブル インサイトに変換することにより、トレンドを特定し、競争上の優位性を確保できます。詳細をご覧ください。

オフィスでコンピュータ画面を見ている 3 人の従業員

今日の世界はデータであふれています。世界のデータ創出量は 2025 年に 182 ゼタバイトに達し、2028 年にはこの数がさらに倍増すると予想されています。ビッグ データの爆発的増加は業界を大きく変え、イノベーションを創出する絶好の機会を生み出しています。しかし企業がビッグ データの可能性を引き出すためには、ビッグ データを適切に理解する必要があります。データ マイニングはまさにこのようなニーズに応えます。

データ マイニングは、膨大なデータセットに内在するパターン、関係性、トレンドを、スマートなアルゴリズムや高度な手法に基づいて明らかにします。つまり未加工データをインサイトに変換することにより、スマートな意思決定を促進し、新たな機会を生み出します。

しかし今日のデータ環境を管理することは容易ではありません。企業は次々に送信される多様な形式のデータを大量に処理する必要があります。このような課題に対処するには、適切なツールを確保するだけでなく、効果的な成果をもたらす戦略的アプローチが必要になります。

このガイドでは、データ マイニングの仕組みと、ビッグ データとデータ マイニングの違いを解説します。イノベーションや持続可能な成長を、大規模データの処理を活用して促進する方法についてもご紹介します。このような課題に対処するには、適切なツールを確保するだけでなく、効果的な成果をもたらす戦略的アプローチが必要になります。

データ マイニングとビッグ データの違い

ビッグ データとデータ マイニングは 1 セットで語られることが少なくありません。しかし実践的なデータ分析においては、独自の役割を持つ個別の概念として扱われます。大規模データセットを効果的に活用するには、両者の違いを理解することが重要です。

ビッグ データは 5 つのディメンション、つまり量、速度、多様性、真実性、価値に基づいて定義され、個々のディメンションは測定可能な効果をもたらします。

ビッグデータとは?

ビッグデータとは、従来のデータ処理ツールでは効果的に管理できない大規模で複雑なデータセットを意味します。これまでは以下のような「3 つの V」という枠組みで定義されていました。

  • 量 (Volume): 莫大な規模のデータ。モノのインターネット (IoT) デバイス、ソーシャル メディア プラットフォーム、エンタープライズ システムなどによって生成されます。
  • 速度 (Velocity): 高いデータ生成・処理速度。多くの場合、データはリアルタイムに生成および処理されます。
  • 多様性 (Variety): 多岐にわたるデータ形式。構造化データ (データベースなど)、半構造化データ (JSON ファイル、XML ファイルなど)、非構造化データ (ビデオ、画像、ソーシャル メディア投稿など) が含まれます。

最近ではこの枠組みにデータの信頼性を意味する真実性 (Veracity) と、分析によって抽出されるインサイトを意味する価値 (Value) が追加されています。企業は 5 つのディメンションに基づいてビッグ データの価値を最大化し、データを取り巻く重大な落とし穴や機会損失を回避する必要があります。

例を挙げて見ていきましょう。ある小売企業は在庫管理の最新情報やサプライチェーン情報をリアルタイムに収集すると同時に、顧客の購買データ、ソーシャル メディアでのやり取り、Web トラフィック指標を収集しています。これらのデータセットの形式には、構造化データ (販売取引)、半構造化データ (XML フィード)、非構造化データ (カスタマー レビュー、ソーシャル メディア投稿) が含まれています (多様性)。

このような大規模データ (量) を精度 (真実性) を維持しながら生成時と同じ速さですばやく処理する (速度) ためには、高度なテクノロジーが必要になります。たとえば、分散ファイル システム、データ クリーニングを実行する機械学習アルゴリズム、リアルタイムな分析ツールなどです。

このようなテクノロジーは重要なインサイト (価値) を引き出し、購入トレンドの予測、在庫管理の最適化、カスタマー エクスペリエンスの改善をサポートし、消費者のプライバシーを保護します。

データ マイニングとは?

データ マイニングとは、パターン、トレンド、関係性を分析し、大規模データセットからインサイトを引き出すプロセスを意味します。情報の整理と保存に重点を置く単純なデータ管理とは異なり、データ マイニングは未加工データをアクショナブル インサイトに変換し、意思決定や戦略策定を促進します。データ マイニングには、以下のような高度な手法が使用されます。

  • 機械学習 (ML): このアルゴリズムは、より多くのデータを処理するにつれて環境への適応性や性能が向上します。顧客の好みの予測や不正行為の検出に使用されます。
  • 統計モデリング: 相関関係、経時的なトレンドなど、データ内の関係性を定量化する数学的手法です。
  • 人工知能 (AI): ヒューマン インテリジェンスをシミュレートし、複雑なパターンの特定や、分析作業の自動化を行うシステムです。

これらの手法は、以下のようにさまざまな目的に合わせてカスタマイズできます。

  • クラスタリング: 類似するデータ ポイントをグループ化し、自然に構成されたセグメント (顧客構成など) を特定します。
  • 分類: データにカテゴリを割り当てます。たとえば E メールがスパムかどうかをラベル付けできます。
  • 相関ルール マイニング: 変数間の関係性を特定します。たとえばバンドル可能なサービスを顧客の好みに基づいて明らかにできます。
  • 回帰分析: 成果を予測します。履歴データに基づいて売上を予測したりできます。

たとえばヘルスケア プロバイダは、データ マイニングを活用することにより、集約された患者記録を分析し、慢性疾患の危険因子を特定できます。このようなインサイトは長期的な予防戦略を策定し、患者のケアを改善するために役立ちます。同様に E コマースでは、同時に購入されることが多い製品をデータ マイニングで明らかにし、購入提案を最適化できます。

未加工データをアクショナブル インサイトに変換するデータ マイニングは、企業がスマートな意思決定を行い、新たな機会を特定できるようサポートします。

ビッグ データにまつわる課題

ビッグ データは大きな戦略的可能性を秘めていますが、ビッグ データの特性である量、速度、多様性、真実性、価値を実現することは容易ではありません。組織は個々のディメンションに伴う独自の課題を克服する必要があります。これらの課題をひとつずつ見ていきましょう。

量: 大規模データセットの管理に伴う負荷

今日生成されるデータの規模は驚異的です。各業界の組織は日々テラバイト単位もしくはペタバイト単位の情報を収集しています。この膨大なデータ量を管理するには、大規模なデータ ストレージ インフラと効率的な検索システムが必要になります。これはロジスティクス上の課題をもたらします。

オンプレミス サーバーのような従来のストレージ ソリューションでは対応が間に合わないため、今日の組織の多くはクラウドベースのストレージ ソリューションを導入しています。拡張性と安全性に優れたストレージ システムが確保されていない場合、組織は重要なデータを失ったり、重要な場面でデータをタイムリーに利用できなかったりする恐れがあります。

速度: リアルタイムな要求への対応

データはかつてない速さで生成されています。多くの業界はこれらのデータをリアルタイムに活用する必要があります。たとえば金融サービス企業は、リアルタイム データを分析して不正行為を検出しています。一方ヘルスケア プロバイダは、リアルタイム データのモニタリングを通じて患者の緊急事態に対応しています。

リアルタイムな要求に対応するには、ストリーミング データを効率的に処理する高度なプロセス フレームワークが必要になります。加えてリアルタイム処理は独自の課題をもたらします。これにはボトルネック リスクへの対応や、高負荷状況でシステムを定期的に更新し、データの精度を維持することが含まれます。

多様性: 異なるデータ形式の管理

先ほど述べたようにビッグ データの形式は一様ではありません。そしてビッグ データを分析するには、異なる形式のデータを単一のシステムに統合する必要があります。これは容易なことではありません。

非構造化データは特に厄介です。自然言語処理 (NLP) やコンピュータ ビジョン ツールはテキストや画像の分析に役立ちますが、これらのテクノロジーには専門知識や大規模な計算能力が必要になります。さらに構造化データ システムと非構造化データ システムの互換性を確保するには、時間のかかる前処理やクリーニングが必要になることが少なくありません。

真実性: データの質と信頼性の確保

データには質の低いものも含まれます。ビッグ データ システムは多様なソースからデータを取得します。不適切な要素 (重複レコード、未入力フィールド、誤った情報など) が含まれている場合、正しい結果が生成されない可能性があります。質の低いデータは誤った意思決定や機会損失を招く恐れがあります。

真実性を確保するには、厳格なデータ検証プロセスを構築し、大規模データセットをクリーニングおよび拡充するツール (並列処理、データ品質チェックなど) を活用する必要があります。質の高いデータは機械学習モデルをトレーニングする場合にも必要になります。真実性は分析だけでなく予測機能にも欠かせない要素です。

価値: アクショナブル インサイトの抽出

ビッグ データの究極の課題は、価値を抽出できるかどうかにあります。つまり未加工データを意思決定に役立つインサイトに変換し、測定可能な成果を生み出せるかどうかです。明確な分析戦略を策定していない場合、最先端のビッグ データ システムを使用しても成果は制限されます。

データ マイニングの真の力は、技術専門家だけでなく誰もがアクショナブル インサイトを利用できるようにすることにあります。

ビッグ データ マイニング: 成功に導く重要戦略

効果的なビッグ データ マイニングを実現するには、ツールや手法だけでなく、チーム間のコラボレーションや明確なプロセスが必要になります。データドリブンな意思決定を重視する文化を促進する必要もあります。人財、ワークフロー、インフラが連動することにより、組織は未加工データを有意義なインサイトに変えることができます。この目標を達成するために役立つ重要な戦略をご覧ください。

    1.部門横断的な協業チームの構築

効果的なデータ マイニングはアクセシビリティを確保することから始まります。データを可視化してアクショナブル インサイトを抽出できれば、技術専門家やビジネスリーダーを含め、誰もがスマートな意思決定をすばやく行うことができます。データ サイエンティスト、エンジニア、アナリストはデータの管理と分析において重要な役割を果たします。一方ビッグ データ マイニングの真の力は、組織全体がインサイトを利用できるようにすることにあります。 

各分野の専門家や意思決定者はデータを可視化し、アクショナブル インサイトを抽出し、職務関連の情報を取得する必要があります。そのためには適切なツールやダッシュボードが不可欠です。コラボレーションを実現するには、技術者だけでなくあらゆるステークホルダーが参加できる共有フレームワークを構築する必要があります。

部門横断的なコミュニケーションを定期的に行い、統合プラットフォームを通じてデータを共有できる必要があります。社員トレーニングを実施し、あらゆる階層のデータリテラシーを大幅に改善することも必要です。  組織内の各チームがデータを効果的に利用できれば、戦略認識を統一し、成果を高めることができます。

      2.明確なデータ マイニング ワークフローの開発

ワークフローを適切に構造化することにより、データ マイニングの取り組みを目的に沿って組織的に実施できます。ステップを順に実行することで、各チームが未加工データをアクショナブル インサイトに変換できるようになります。 

まずは目標を定義します。どのような問題や機会を特定したいのかを具体的に検討し、目標を明確に定め、データ マイニング ワークフローとビジネス戦略を一致させます。次に、分析に適した形式にデータを変換します。 

データの準備が完了したら、分析を開始します。目標に応じて最も関連性の高い関係性、トレンド、パターンを特定します。大規模なデータセットの分析は、小規模なデータセットでワークフローをテストし、精度を確認してから行うようにします。この段階では現実的な期待値に照らし合わせてテスト結果を検証し、必要に応じて繰り返しテストすることが重要になります。

明確で反復可能なワークフローを構築することにより、組織内の誰もがデータ マイニングの信頼性を確信し、分析結果に基づいて効果的な意思決定を確実に行うことができます。

    3.拡張性の高いツールとインフラへの投資

上記の戦略は、拡張性や適応性の高いツールやインフラを使用することが前提となります。拡張性の高いプラットフォームを使用すると、多様なデータソースを統合し、データ処理を自動化および効率化できるため、データ要求の増大がパフォーマンスの低下をもたらすことはありません。

AI は将来を見据えたデータ戦略の主役となり、企業が大規模データセットをマイニング・管理する方法を大きく変えています。ビッグ データ マイニング戦略を適切に実行するためには AI の導入が不可欠になります。新たに出現するテクノロジーや機能を継続的に把握する必要もあります。

AI を活用したツールはデータ マイニングを強化するだけでなく、データ マイニングを再定義します。機械学習アルゴリズムは、人間と比べものにならない速さと規模でパターンやトレンドを特定します。NLP は、非構造化データへのアクセスを実現し、アクショナブル インサイトを引き出します。AI ドリブンな予測分析は、トレンドを予測し、リスクを軽減し、これまで見逃されていた機会を明らかにします。

    4.セキュリティと倫理の優先

組織がビッグ データ マイニングの取り組みを拡大する中、強固なセキュリティや倫理的なデータ施策の重要性は飛躍的に高まっています。機密性の高い大規模データの保護は規制要件であると同時に、信頼を構築し、長期的成功を実現する礎となります。

GDPR などの規制で規定されているデータ ガバナンスのグローバル ベンチマークは、管轄地域をはるかに超えて企業のポリシーに影響を与えています。このような要請に対応するには、厳重なアクセス管理を導入し、機密データを暗号化する必要があります。さらに定期的なシステム監査を実施し、先を見据えて脆弱性を特定および解決する必要があります。

同様に重要となるのは、倫理的なデータ使用の取り組みです。可能な限り匿名化手法を導入して個人のプライバシーを保護し、常に責任と透明性を持ってデータを扱うようにします。このような施策はステークホルダーの信頼を促進するだけでなく、コンプライアンスをサポートし、企業責任をめぐる社会的期待に応えることになります。

大規模データセットを活用するためには、より一層の企業努力が必要になります。セキュリティと倫理の両方を優先することで、組織はリスクを軽減し、企業の評判を維持できます。さらに持続的・革新的なデータ戦略基盤を確立し、厳しい局面を乗り切れるようになります。

現実世界の例

各業界の組織は高度なデータ戦略を活用することにより、大規模データセットの分析に伴う課題を克服し、有意義な成果を達成しています。このような事例は、ビッグ データが革新的な機会をもたらすことを裏付けます。

データを統合してシームレスなコラボレーションを実現したビジネス ソリューション プロバイダ

ビジネス パフォーマンス ソリューションを提供するグローバル プロバイダは、オペレーションのサイロ化と時代遅れのプランニング ツールが原因で、データに効率的にアクセスし、アクショナブル インサイトを抽出することが困難な状況にありました。同社は Workday Adaptive Planning を導入し、11 の個別システムに分散されていたデータをひとつの統合プラットフォームに集約しました。

この変革的な取り組みにより、部門横断的なコラボレーションを改善し、データの精度と一貫性を確保したほか、ERP/CRM システムのレポーティングを加速し、より柔軟なデータ モデリング機能を活用できるようになりました。

人事のリアルタイム インサイトの抽出に成功した大手医療保険会社

大手医療保険プロバイダは、データ管理や意思決定を遅らせる断片化された人事システムに苦慮していました。この問題を解決するため、同社は Workday ヒューマン キャピタル マネジメント (HCM) を導入し、個別システムをひとつの統合プラットフォームに一元化しました。

この変革的な取り組みにより、データへのリアルタイム アクセスを実現し、人事プロセスを効率化し、リーダーにアクショナブル インサイトを提供できるようになりました。コロナ禍では、Workday のリアルタイムなレポーティング機能を活用し、以前のように膨大な手作業に追われることなく、累積休暇日数を効果的に管理しています。

よりスマートな道筋

ビッグ データ マイニングは単に技術的課題をもたらすだけではありません。競合他社に先んじて価値あるインサイトを抽出し、有意義な改革を推進する戦略的機会をもたらします。ビッグ データ マイニングの活用に成功している組織は優先事項を明らかにし、コラボレーション体制を整備し、目標に応じて拡張可能なツールを導入しています。これらの要素を連動させることで、大規模データにアクセスするだけでなく、大規模データを活用し、組織の未来を形成しています。

大規模データセットがパフォーマンスにもたらす影響を Workday で改善する方法については、人事および財務向けエンタープライズ データ ハブをご覧ください。

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