複雑な求人市場で成長を続ける人事部門リーダー

Workday の指標によると、組織が求人市場の変化に適切に対応するためには、重要な人財を維持し、社内人財の流動性を重視し、ビジネス目標を明確に周知する必要があります。

求人市場が複雑化する中、従業員は行き詰まりを感じています。一部の業界で求人数は増えていますが、景気後退への懸念が高まっており、人財は経済の先行きに不安を募らせています。

求人市場の現状はどうなっているのでしょう。

当社は数百万件に及ぶアクション (申請/有給休暇の承認など)、イベント (個々の採用、昇進、社員異動など)、社員調査から得たデータに基づいて詳細な調査を実施しました。調査結果の要点は以下のとおりです。

  • 潜在能力の高い社員が離職しています。重要な人財の離職を防止する取り組みを強化する必要があります。

  • 2023 年と比べて求人と応募の総数はともに増加しています。すでに多忙な採用担当者の負担が増す可能性があります。

  • 社内候補者は社外候補者よりも仕事を得る確率がはるかに高くなっています。 

  • 社員エンゲージメントは比較的安定していますが、業界によって大きな違いがあります。

このような複雑な求人市場でビジネスを常に前進させるためには、優秀な人財を維持することを優先し、人財の成長をサポートし、ビジネス目標を明確に周知する必要があります。

当社の 2024 年の中間レポートでは、応募数が求人数の 4 倍の速さで増加していました。最新のデータでは応募数が 3.8 倍の速さで増加しており、その差がわずかに縮まっています。最も重要なことは、組織が優秀な人財を厳選できる一方で、積極的に活動している求職者は厳しい状況にあるということです。

グローバル ワークフォースの動向を数字で見てみましょう。すべての変化率 (パーセンテージ) は、2023 年通年と比較した 2024 年通年の成長率を示しています。

  • Workday のお客様は 3,800 万件の雇用を創出しています (前年比 7% 増)

  • 候補者が Workday に送信した応募件数は 3 億 5,600 万件に上ります (前年比 26% 増)

  • Workday のお客様は 2,800 万件の内定を提示し、雇用契約を締結しています (前年比 9% 増)

2024 年には世界各国で 1 日あたりおよそ 100 万件の応募が Workday プラットフォーム上で処理されています。労働統計局の数字に基づいて算出すると、 Workday のお客様は昨年、米国のおよそ 30% に及ぶ求人を取り扱っています。

以下のグラフを見ると、エネルギーおよび公共事業を除くすべての業界で採用が増加しており、求人市場の競争が激しくなっていることがわかります。

業界のハイライト

  • テクノロジー: 業界再編が進む中、この業界は求人数 (21%) と内定数 (13%) の増加率が最も高くなっています。一時解雇の増加に起因して求人競争率は上昇しており、応募数は 41% 増加しています。技術職の求人のほぼ半分 (49%) は、内部登用で充足されています。多くのテクノロジー企業は AI 導入を見据えて組織再編を進めており、これが一時解雇の主な理由となっています。

  • 運輸: 求人数が 4%、内定数が 5% 減少しており、この業界が減速傾向にあることを示しています。一方で応募数は 13% 増加しています。Smart Trucking によると、サプライチェーンの混乱、経済的不安定さ、トラック運転手の求人数や就業機会の減少がこの分野の成長にブレーキをかけています。貨物需要も減少しており、業界全体の減速傾向を助長しています。

  • ヘルスケア: この業界は活況を呈しており、全般的に力強い伸びを示しています。求人数は 14% 増加していますが、競争が激化しているため、応募数が 32% 増加しているのに対し、内定数は 20% の増加にとどまっています。 

  • エネルギーおよび公益事業: 求人数 (6%) と応募数 (9%) はわずかに増加していますが、内定数が 21% 増加していることから、人財不足が生じている可能性があります。 

  • ホスピタリティ: 求人数 (4%) がわずかに増加し、内定数は横ばい状態にある一方、応募数は 24% と急増しており、競争が激化しています。応募数の増加は組織の追い風になると思われるかもしれませんが、求人数のわずかな増加は、急増する応募者を組織が適切に活用できていないことを示します。応募数の多さは求職者の多さを意味しますが、内定数が横ばい状態で離職者が依然として多いことは、ホスピタリティ業界が社員の離職問題を根本的に解決できていないことを意味します。

社内人財の流動性がもたらすメリット

求人数は増加していますが、その 3 分の 1 は内部登用で充足されています。HiredScore を使用しているお客様のデータを見ると、社内候補者はかなり優位な立場にあります。社内候補者は応募者の 6% を占める一方で、充足された求人数の 32% を占めています。

社内候補者は社外候補者よりも採用確率が 5 倍高くなっています。これは企業が社内採用を重視しており、社内候補者を採用する可能性が極めて高いことを意味します。

2024 年には世界各国で 1 日あたりおよそ 100 万件の応募が Workday プラットフォーム上で処理されています。

当社のデータによると、需要の高い職務は各業界で年間を通じて採用にかかる期間が短期化しています。たとえばヘルスケア担当者は 12%、営業担当者は 11% 短くなっています。社内候補者は採用までの期間が短い傾向にありましたが、以前よりさらに短期化しています。 

他の職務 (会計、製造、カスタマー サポートなど) では、社内候補者と社外候補者との間で採用までの期間に大きな差はありません (会計と製造は 1% 未満、カスタマー サポートは 2% 短くなっています)。この違いは、これらの職務がコモディティ化され、社内候補者の持つ知識と社外候補者の持つ知識に大きな違いがなくなっていることが原因であると考えられます。

エンジニアリングにおいては、社内候補者の採用にかかる期間が長期化しています。社内候補者の採用にかかる期間は 2022 年から 2024 年までの間に 8% 短縮されましたが、2024 年にはこの割合が 4% に縮小しています。この原因としては、一部のエンジニアリング業務がコモディティ化していること、または AI で実行されるエンジニアリング業務が増えたことが考えられます。もう 1 つの原因としては、テクノロジー業界の大規模な一時解雇により、エンジニアの求職者が増加したことが考えられます。

組織は社内人財を採用するメリットと、社外人財を新規に採用するメリットを比較・検討しています。コモディティ化されている職務においては特にそうです。また、かつてほど急速に成長していない組織は、社内候補者を安全な選択肢として重視する傾向が続いています。しかし AI が求人市場にもたらす影響を考えると、社内候補者が今後も重視され続けるかは不明です。 

潜在能力の高い社員の離職増加と昇進率の回復

Workday People Analytics を使用しているお客様の指標を見ると、潜在能力/業績の高い社員の離職が増え続けています。十分なデータが確保されている 11 の業界のうち 10 の業界で、優秀な人財の離職が増えています。

2023 年にはほとんどの業界で昇進率が急落しました。これと同時に社員の離職率が記録的に低くなり、社内異動も減少しました。これは社内人財の流動性に重点が置かれていた 2022 年の状況と真逆の動きです。異動や昇進機会が減ったことにより、社員は自身の職務に行き詰まりを感じるようになっている可能性があります。 

2024 年は複雑な状況を呈しています。業界の半数は昇進率が回復しつつありますが、残りの半分は現在も減少傾向にあります。

2024 年のヘッドカウントの成長率は、追跡対象となっている 9 の業界のうち 7 の業界で 2023 年から減少しています。当社のデータでは、ヘッドカウントの成長率が 2 つの業界でわずかに上昇しており、小売業界は前年から 0.1% 上昇して 1.9% となっています。一方テクノロジー業界は 0.2% 上昇し、2023 年末の -1.5% から上昇に転じていますが、以前の成長率には遠く及ばない状態にあります。

エンゲージメントの上昇と例外

Workday Peakon Employee Voice の指標によると、世界各国の社員の 35% は高いエンゲージメントを保持しています。ここでエンゲージメントの高い社員とは、主要なエンゲージメント推進要因 (会社の推奨、ロイヤルティ、信念、満足度) と 14 のエンゲージメント推進要因 (報酬、戦略、承認・称賛、会社との適合性など) に対する評価に基づいて算出した総合的な平均スコアが 9 ~ 10 に達している社員を意味します。

当社の分析は、リーダーの一貫した言動と揺るぎない信頼感がエンゲージメントに大きく影響することも示しています。

各国のエンゲージメント レベルはわずかに改善しており、エンゲージメントの高い社員の割合は APAC (アジア太平洋) で 3 パーセント ポイント、北米で 2 パーセント ポイント、EMEA (欧州、中東、アフリカ) で 1 パーセント ポイント上昇しています。ラテン アメリカでは 1 パーセント ポイント減少していますが、同地域の社員の 50% は依然として高いエンゲージメントを維持しています。 

エンゲージメントが高い社員の割合は、前年と比べてほとんどの業界で上昇しています。例外はプロフェッショナル サービスとビジネス サービスで、8 パーセント ポイントという高い減少率を示しています。

以下のグラフは、2023 年~ 2024 年にエンゲージメントの高い社員の割合がどのように推移したかを示しています。

最前線の業界 (エネルギーおよび公共事業、ヘルスケア、小売、製造、運輸) では、エンゲージメントの高い社員の割合が平均で 3 パーセント ポイント上昇しています。一方知識産業では、エンゲージメントの高い社員の割合が減少しているかほとんど変わっていません。たとえば通信・メディア・テクノロジーは横ばい状態、金融サービスは 2% 増加、プロフェッショナル サービスとビジネス サービスは 8% 減少しています。最前線の業界と知識産業は以前と同様、報酬、承認・称賛、戦略といったエンゲージメント推進要因のスコアが最低水準を示しており、知識産業では減少率がより大きくなっています。

当社の調査は、リーダーが自らの一貫した言動と揺るぎない信頼感を重視する必要があることも明らかにしています。これは社員の組織戦略の理解度を測定するスコアが減少していることでわかります。特に知識ベースの業界でこのスコアが減少しています。これらのスコアの低さは、マクロ トレンドや AI に対する組織の対応が不透明であることが反映されている可能性があります。社員と明確にコミュニケーションを取り、リーダーの長期的目標を共有することが求められます。社員エンゲージメントの詳細については、今後公開される『グローバルなエンゲージメント状況レポート (2024 年)』をご覧ください。

企業が今日のビジネス環境を乗り切る方法

91% の業界で潜在能力の高い従業員の離職が大幅に増加しています。ビジネスリーダーはこの流れを早急に食い止める必要があります。当社の最高学習責任者を務める Chris Ernst は、スキルベース組織に関する最近の調査に関連して次のように述べています。「AI が職場を大きく変える中、人間的要素はこれまで以上に重要になります。スキルを重視する企業は、AI の可能性を最大限に引き出すだけでなく、人間の創造力を革新的な方法で活用できるようになります」

潜在能力の高い従業員を維持し、ビジネス成果を高めるベストプラクティスを以下にいくつかご紹介します。

  • 人事部門と連携します。的を絞った離職防止戦略を特定・導入し、優秀な人財のエンゲージメントやモチベーションを維持します。これには競争力のある報酬パッケージ、キャリア開発の機会、承認・称賛 プログラムが含まれます。 

  • 仕事を意味あるものにします。当社の調査によると、組織が最優先すべき課題は、社員が「意味のある仕事」に注力できるようにすることにあります。意味のある仕事をしていると感じている従業員は、そうではない従業員と比べて、仕事量が「多すぎる」と感じる場合も達成感を覚える割合が 37% 高くなっています。 

  • AI の未来を目的を持って構築します。人事部門リーダーは組織全体が AI をスマートに使用できるよう指導・奨励し、ビジネス成果を生み出して、 人財の潜在能力をレベルアップする必要があります。

  • ビジネス目標を明確かつ頻繁に伝えます。リーダーシップや戦略に関する懸念を払拭することにより、社員の士気と自信を高め、潜在能力の高い社員の離職を防止できます。

  • 人財分析ツールを使用し、タレント マネジメントやワークフォース プランニングに関する意思決定をデータに基づいて行います。不確実な時代においては、質の高いデータや強固な人事基盤を確保することが極めて重要になります。そうすることで生産性の高いアジャイルなワークフォースを構築し、企業目標を達成できます。 

  • 社内人財の流動性は重要です。以下のリストは、社内人財の流動性を高めるために当社が実施したステップの一部を示しています (当社のレポートの 15 ページから抜粋)。リーダーはオンボーディングを加速し、すでに会社に貢献している候補者を維持することができます。組織固有のキャリアアップ問題を詳細に検討し、その解決方法に対するフィードバックを組織全体から収集します。

分析方法

この Workday グローバル ワークフォースの最新データは、複数の Workday ソースに基づいています。これには Workday リクルーティング、Workday Peakon Employee Voice、Workday People Analytics、HiredScore (Workday グループ企業) を使用するお客様の集計データが含まれます。これらのソースは、数百万に及ぶアクション、イベント、応募、サーベイの回答、社員データからインサイトを引き出します。データには Workday 社員の情報は含まれていないこと、また一部の指標の動向はお客様の本番稼働状況や離職率に起因することをご了承ください。この分析は Workday の専門家チーム (Greg Anderson、Jeremy Grynpas、Vishnu Mohan、Ernest Ng、Brad Reaume) によって実施されています。

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