2025 年に AI は企業の財務部門をどのように変えるのか

企業の財務部門が AI を導入すると、複雑なプロセスの自動化からリアルタイムの戦略的インサイトの導出に至るまで、変化に迅速に対応できるようになるどころか、変化を先取りできるようになります。

大きなコンピュータ画面を見ながら話している 3 人の同僚

AI 財務の役割は急速に変化しています。財務部門ではかなり前から、処理の精度や速度を高めたいという声に加え、戦略的インサイトを求める声が上がっており、その要求は強まる一方です。こうした要求に、長年にわたり対応してきたのです。現在、 企業では AI を活用して、既存のプロセスを変更するだけでなく、財務オペレーションの管理方法を根本的に変えることで、財務領域の変革を推進しています。

同時に、財務部門における AI の導入は重要な転換点を迎えています。リアルタイムの収益予測や自動照合調整など、これまで最先端の機能と考えられていたものが、競争力の維持を求める企業では、必要不可欠な存在となりました。

今の AI で重視しているのは、もはや効率だけではありません。よりスマートで戦略的な意思決定を支援し、人間だけでは見落としがちなパターンを示します。こうして企業全体を丸ごと前進させるようなイノベーションを後押しします。

この記事では、AI 財務の動向やユース ケースを紹介し、AI を活用して、財務部門がより迅速かつスマートに、そして戦略的影響に重点を置きながら業務に取り組む方法について説明します。AI の導入を初めて検討している場合でも、企業内で AI の使用を拡大したいと考えている場合でも、このブログを読むことで、次のステップに移行できるようになります。

最高経営責任者 (CEO) の 98% が、AI と ML を導入すれば、即座にビジネス上のメリットが得られると述べています。

企業の財務部門を刷新する AI の動向

2025 年、財務部門は AI を未来のツールとしてではなく、オペレーショナル エクセレンスを実現する推進力として導入しています。Workday が実施した AI に関する最新の指標調査レポートでは、驚くべきことに CEO の 98% が AI と機械学習 (ML) により、即座にビジネス上のメリットが得られると述べています。

特に最高財務責任者 (CFO) にとって AI は、財務部門の影響力を単なる数値分析からスマートな意思決定を導く重要な戦略的推進力へと拡大する変革の原動力となっています。しかし、上記の調査によると、 AI を全面的に導入する準備ができていると回答した企業は、半数未満にとどまりました。

財務リーダーにとって、財務における AI の現状と、その導入の道筋を付ける最新動向を把握することは、自社の財務部門を最新化するうえで非常に重要です。ここでは、2025 年の最も重要な 4 つの動向を紹介します。

1.財務プロセスの自動化

2025 年現在、AI 搭載の財務ツールは請求書の処理、勘定の照合、データの入力をほぼ完璧な精度で実行できます。たとえば、AI を搭載したロボティックス プロセス オートメーション (RPA) ツールを使用すると、数千件のトランザクションを同時にリアルタイムで処理することができます。 

このようなツールと ERP や CRM などの他のシステムをシームレスに統合することで、企業全体の財務記録を継続的に最新の状態に保つことができます。同時に、機械学習アルゴリズムにより、トランザクション データ内の異常を自動的に検出できるようになり、企業は問題が深刻化する前に人的ミスや不正行為の可能性を検知できるようになりました。

明らかなメリットは、財務オペレーション全体の生産性と精度が向上することですが、自動化によって財務部門が企業全体に変革と価値をもたらすという大きな変化も生まれています。

Workday の最新レポートで Kainos 社の財務責任者である Matt McManus 氏は次のように述べています。「AI と ML の導入により会計部門は手作業から解放され、財務担当者は価値創出者への転身を図れるようになりました。これにより財務部門は、『新しい方法でお客様にサービスを提供するにはどうすべきか』、『新製品によってビジネスモデルをどのように変革すべきか』という、成長に関する重大な課題に対処できるようになります」

財務部門は、変化する市場で企業の競争力を維持し、真の成長を促進するために、このような問いを検討する必要があります。自動化が導入されると、このような問いは、財務部門でより現実的かつ日常的な重要事項となります。

「AI と ML の導入により会計部門は手作業から解放され、財務担当者は価値創出者への転身を図れるようになりました」

Matt McManus 氏、
Kainos 社財務責任者 Matt McManus 氏 財務責任者 Kainos 社

2.戦略的プランニングのための予測分析

AI 駆動型予測モデルにより、過去データ、リアルタイムの財務指標、外部の市場動向を分析して、アクションにつながる、カスタマイズされた予測を活用できるようになります。このようなモデルを活用すると、企業はさまざまなビジネス シナリオのシミュレーションを行えるので、リスクの軽減、意思決定の支援、機会の有効活用などを実現するための、先を見据えた計画を策定できるようになります。

また、現在では財務データや業務データと直接統合できるため、収益予測がより広範囲に実施できるようになりました。たとえば、財務部門は静的な四半期の予測に頼るのではなく、AI を使用して、需要、為替レート、地政学的動向の変化に基づいて、リアルタイムで調整を行うことができます。また、他の部門のリーダーとともに、部門固有の将来的な影響を分析することもできます。

分析は数字に限定されるものではありません。AI 搭載予測分析ツールの自然言語処理 (NLP) 機能を活用すれば、ニュース、市場レポート、ソーシャル メディアのセンチメントを分析して、ビジネス環境に影響を与える要因を、より包括的に把握できるようになります。

3.透明性のある説明可能な AI (XAI)

AI がビジネス上の意思決定の推進において、大きな役割を果たすようになるにつれ、透明性と説明責任の重要性も高まります。説明可能な AI (XAI) は、AI モデルがどのように結論を導き出したのかを、意思決定者が理解して検証できるようにすることで、この問題を解決します。「ブラック ボックス」のように動作する従来の AI システムとは異なり、XAI は明確な推論を提示し、インサイトが信頼できるアクショナブルなデータに基づいていることを保証します。

XAI 市場は 2025 年に拡大し、2028 年までに 2 倍以上 に成長することが見込まれています。財務部門においては、クレジット スコアリング、リスク管理、投資の推奨などの実践方法が再構築されます。たとえば、XAI モデルは単純なリスク スコアを示すのではなく、計算に影響を与えた特定の要因を詳細に説明します。 

この透明性レベルにより、財務リーダー間の信頼が構築されるとともに、規制基準や倫理ガイドラインに対するコンプライアンスも確保されます。XAI は、AI の意思決定プロセスを明らかにすることで、企業がステークホルダー間の信頼を築きながら、責任を持って AI を導入できるようにします。

4.完全統合型プラットフォーム ソリューション

AI の導入で財務オペレーションの再構築が加速する中、統合プラットフォーム ソリューションが、財務部門と他の部門を連携させるための欠かせないツールとして浮上しています。このソリューションは、財務、オペレーション、人事、マーケティング、セールス、サプライチェーン全体を一元化されたシステムに統合し、部門間のデータの流れを円滑にするものです。 

これにより CFO は、ビジネスをより包括的に理解できるようになると同時に、データドリブンな意思決定を行えるので、健全なだけでなく、的確な判断に基づいたオペレーションを実施できるようになります。たとえば、 AI を組み込んだプラットフォームで、財務予測とワークフォース プランニングを同期することで、予想される需要に合わせて人財配置を調整できます。システム運用中に、サプライチェーンの混乱が特定された場合は、直ちに財務シナリオのプランニングに反映されます。

このようなインテグレーションにより、財務部門はレポート作成だけでなく、先を見据えたコラボレーションという価値を創出できるようになります。半数以上 (51%) の CFO が、財務データと財務以外のデータの両方を頼りに意思決定を行っていることを踏まえると、現代の財務部門には統合ソリューションが不可欠になります。

AI によって財務部門がどのように変わるのか: 主なユース ケース

AI 財務が変革の原動力となりますが、このことはシステムの運用という観点からも明らかです。企業が 2025 年に AI を活用すると財務プロセスをこのように刷新できるというユースケースを、以下で見ていきましょう。

業務の効率化

AI を使用すると、財務部門はオペレーション全体の中で非効率な部分を体系的に特定し、アクションにつながる改善を実施できるようになります。プロセスのワークフロー、リソースの割り当て、財務のパフォーマンス指標を広範囲にわたって分析することで、AI はコストの削減や生産性の向上が可能な領域を明らかにするので、財務部門では、業務の効率と精度が飛躍的に向上します。

動的な予算編成と予測

予算編成と収益予測は、AI の導入により動的で継続的なプロセスに変わりつつあります。財務部門では、四半期ごとに更新する静的なデータに頼る代わりに AI を活用することで、市場の動向、収益の変動、オペレーション上の変更などのライブ データの情報に基づいて、リアルタイムで予算と予測を調整できるようになりました。また同時に、AI を活用すると企業はシナリオをモデル化し、考えられるさまざまな結果を把握できるようになるため、不測の事態に備えたり、新たな機会や課題に迅速に対応したりすることが可能になります。

不正行為の検出と防止

AI には、膨大な量のトランザクション データをリアルタイムで分析できる能力があるので、不正行為の検出プロセスも様変わりします。機械学習アルゴリズムは、財務トランザクション全体のパターンを監視し、通常とは異なる支払い場所や支出傾向など、不正行為の兆候となる異常を特定するものです。進化する脅威と過去の不正に関するデータを分析することで、不正行為の計画を予測することができます。これらのインサイトに基づいて即座に対応することにより、財務部門は財務上の損害が発生する前にリスクを軽減できます。

AI による資金管理の強化

AI システムは、キャッシュフローのパターン、通貨の変動、市場データを分析して、企業における流動性管理を最適化し、投資利益率を最大化します。予測分析では、資金の過不足期間を特定し、資金担当部門が投資や借入においてタイムリーに決定を下せるようにします。さらに、 AI はヘッジ戦略や為替レートの動向に関する貴重なインサイトを提供することで、外国為替エクスポージャの管理を効率化します。

信用リスクの評価

AI は、リアルタイムの市場データと過去の財務記録を統合することで、信用リスクの評価精度を新たなレベルに引き上げることができます。高度なアルゴリズムは、支払い履歴、業界の傾向、さらには地政学的リスクといった外部要因などの指標を分析して、借り手の信用力を評価します。従来の信用モデルとは異なり、 AI は新たなリスクに適応し、動的かつ正確なリスク スコアを提示します。その結果、企業は不良債権のリスクを軽減しながら、より適切に融資上の判断を行えるようになります。

AI の導入における課題

AI 財務のメリットは多大な一方、財務部門固有の課題もいくつかあります。企業が AI の潜在能力を最大限に引き出すためには、次のような障壁に慎重に対処する必要があります。

データ プライバシーとセキュリティ

AI システムが期待どおりの効果を発揮するためには、膨大な量のデータにアクセスする必要がありますが、一方でこのことから、データ プライバシーとセキュリティに関する懸念が生じます。顧客の支払い情報、トランザクションの記録、コンプライアンス データなどの機密情報を扱う場合、強力な暗号化プロトコルと、GDPR や CCPA などのデータ保護規制の遵守が求められます。

一元化されたデータ システムでは、システム侵害のリスクが高くなることもあるため、AI 財務を導入している企業においては、サイバーセキュリティが重要な焦点となります。 

コストと専門知識の障壁

AI を導入する場合、ソフトウェアの入手、システムのインテグレーション、社員のトレーニングなど、初期費用が高額になることがよくあります。小規模な財務部門や、リソースが限られている企業では、これらへの投資が導入の障壁となる可能性があります。

AI ツールを効果的に使用するためには、財務部門の社員が新しいスキルを習得する必要があります。もともとスキル習得の時間も予算も限られている中で、社員にさらなる負荷がかかることになります。適切なプランニングがなければ、こうした要因により、AI 導入の取り組みが遅れたり、頓挫したりする恐れがあります。

レガシー システムとの統合

企業の財務部門では往々にして、依然として基幹業務に時代遅れのレガシー システムを使用しているために、高度な AI ソリューションとのインテグレーションが困難な状態です。互換性の問題、データのサイロ化、ワークフローの分散化により、導入プロセスが複雑になる可能性があります。 

新たに導入する AI テクノロジーと既存システムとを統合する場合、企業では時として、大規模な IT のアップグレードやミドルウェア ソリューションに投資する必要が生じます。この場合費用も掛かりますし、システムもますます複雑になります。このような状況を踏まえると、AI が組み込まれたプラットフォームのメリットはより明確になります。なぜなら、このようなプラットフォームにより、複雑なインテグレーションの必要性を回避できるからです。 

チェンジ マネジメントと文化的抵抗

財務部門に AI を導入するには、企業文化を変える必要があります。社員は職務を失うことを恐れたり、AI のメリットを理解していなかったりするため、 AI の導入に抵抗することがあります。ステークホルダーの抵抗により、導入の取り組みが妨げられる可能性もあります。リーダーは、 人間の役割を AI に置き換えるのではなく、どのように AI で人間の役割を強化するのかを重視した、明確なコミュニケーションとチェンジ マネジメント戦略に焦点を当てる必要があります。

財務リーダーは、AI の導入は人間の能力を強化するためであって、これまで人間が担っていた役割を AI に任せるためではないということを、組織内で周知徹底する必要があります。

倫理と規制の遵守

AI システムは倫理的な規制のフレームワーク内で運用する必要がありますが、企業の財務部門のように、規制が厳しい領域では難しい場合があります。たとえばマネー ロンダリング防止対策 (AML)、税務レポート、財務状況の開示などの分野では、AI を活用した意思決定がコンプライアンス基準を満たすよう、慎重な監視と検証が不可欠です。企業では、AI ソリューションを選択する際の重要な考慮事項である、アルゴリズム バイアスや透明性に関する懸念にも対処する必要があります。 

次のステップへの移行

財務部門における AI 導入は、もはや不可避です。導入の有無ではなく、その影響力と運用責任が問われる時代に入っています。企業のプランニング、オペレーション、イノベーションは、AI によって根本から変わり始めています。2025 年、財務部門は AI を活用することにより、急速に変化する市場の要求に対応できるようになるだけでなく、常に先を見据えた施策を実施できるようになります。プロセスを合理化し、より精度の高いインサイトを導き出し、戦略的価値を実現するからです。

ただし AI は、導入さえすれば成功が約束される、というものではありません。導入の効果を最大限まで高めるには、テクノロジーと人間の専門知識を組み合わせることです。つまり、速度と精度が必要な処理は AI が担い、状況把握とそれに基づく判断は、経験豊富な財務部門の社員に任せるという形です。また同時に、AI の課題を乗り越えるには、先を見据えた判断力と信頼できるパートナーが必要です。

AI はいずれ、効率を高めるツールの域を超え、財務部門に長期的な成功をもたらす戦略的パートナーになるべき存在です。この進化を受け入れる企業は、ますます複雑化しダイナミックになる世界経済において、優位性を確保し成功を収めることでしょう。

Workday Adaptive Planning ソリューションが、将来を見据えた柔軟な財務戦略の策定に役立つことをご確認ください。

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