2022年の人事の展望:労働市場の4つのトレンドを紐解く
企業がコロナ後の再生を果たすには、この労働市場の変化を考慮した上で、2022年の人事戦略における優先事項を定める必要があります。Sapient Insightsグループ CRO 兼 業務執行社員であるステイシー・ハリスがその理由を説明します。
企業がコロナ後の再生を果たすには、この労働市場の変化を考慮した上で、2022年の人事戦略における優先事項を定める必要があります。Sapient Insightsグループ CRO 兼 業務執行社員であるステイシー・ハリスがその理由を説明します。
今日の労働市場のトレンドは、企業の人事戦略にどのような影響を及ぼし、どのような優先事項の変化をもたらすでしょうか? Sapient Insightsグループの主任研究員(CRO)兼 業務執行社員であるステイシー・ハリス(Stacey Harris)氏が語ります。
現在、採用活動を行っている企業は、まるで海の中心に取り残されたような感覚に陥っているかもしれません。採用候補者はたくさんいるのに、なぜか一向にポジションが埋まらない。言い換えれば、辺り一面に水があるのに、飲める水は一滴もないという状況です。
この厳しい労働市場は、コロナ禍によって労働者の『内省』が進んだのが原因です。彼らは、自らのキャリアにおいてだけでなく、人生そのものにおいても、本当に望むものが何であるかを再考するようになりました。
ハリス氏は次のように述べています。「結局のところ、彼らは自分たちの持つ時間がどれだけ大切で、その時間を使って何をしたいかをあらためて考え直したのです。その結果、あらゆる労働者にとっての時間の価値が高まり、『安売り』されなくなったということです」
企業がコロナ後の再生を果たすには、この労働市場の変化を考慮した上で、2022年の人事戦略における優先事項を定める必要があります。
Sapient社の『第24回 年次人事制度調査(2021 / 2022)の主要知見』は、今後の人事業務に影響を及ぼす4つの主要トレンドを挙げています。すなわち、今日のいわゆる『1. 大退職時代(The Great Resignation)』『2. 労働力の不足』『3. スキルギャップへの対処』、そして『4. コロナの影響による労働環境の変化』です。このグローバル調査では、あらゆる規模の企業を対象に、50か国以上の計2,177社にアンケートを行いました。
「5年、10年単位ではなく、2年単位で変化が起きています」
ステイシー・ハリス
CRO 兼 業務執行社員
Sapient Insightsグループ
「人事部門とそれを支えるテクノロジーが果たす役割の大切さが、今年の人事制度調査の結果から見て取れます。極度の人手不足が過去10年以上続き、組織にはそれに順応する底力が求められています。人事担当者のみなさんには、このリポートをぜひ活用していただきたい。ご自分の組織の人事制度をめぐって、これまでのやり方に間違いはなかったのか点検するのに役立ちます。人事面の今後の展開を描き、ビジネス上の意思決定をするのに資する環境整備につながるでしょう」とハリス氏は語ります。
主な調査結果は次の4点です。
1. 大退職時代の大きなインパクト
大退職時代が話題の中心となっているのが米国ですが、2022年には世界的な動きに発展するというのが、ハリス氏の見立てです。「労働者保護が行き届いた状況は、ヨーロッパ市場ではよくあることですし、アジア太平洋地域の一部でも見られます。こうした地域は、大退職時代の波からは半年遅れになりそうです。退職を通告して新しいポジションを得るのに半年かかるからです。米国以外の地域が大退職時代を迎えるのは、2022年以降になりそうです」
ハリス氏は、この世界規模での大退職時代が、米国と同じく『通底する価値観の変化』によって推進されると予測しています。しかし一方で、その動機は米国とは微妙に異なると考えています。
「アジアやヨーロッパでは、『仕事をやめたい』というよりも、『働くならもっと融通が利く形が良いし、キャリアの方向転換とか研修のチャンスももっとほしい。会社への貢献の仕方だって、もっと幅広くとらえてみたい』といった考え方が広まっています」
人事担当者が認識すべきことがあります。2022年に打つべき手立ての優先順位を考えるのに、大退職時代を引き起こしている動機づけをきちんと理解しているか、自問すべきだということです。
失業手当を打ち切った州に目を向けると、失業者が職にありつけた件数が大幅に増えたわけではないという現実があります。いずれは職を得ようと思っている人たちには、今は仕事に就かない理由がほかにもあります。子供を預けられないとか、新型コロナウイルス感染の恐れがあるといったことです。求職活動でも応募先の良し悪しをきちんと見極める傾向があります。融通が利いて自分でやりたいようにやれるのが理想です。つまり、自分の時間の有効活用に重きが置かれるようになったのです。
意外な結果が、Sapient Insights調査への回答状況から分かります。人事面のテクノロジーにまつわる経営判断は、短期的な業績の確保が主たる要因であり、従業員のことは二の次だったというのです。理解できる点が多くありますが、長期的には、スキルがあって仕事に打ち込み、生産性も高い従業員を確保していないと、業績が目標通りにならない危険をはらみます。従業員の働き方が改善すれば、その会社が人財を呼び寄せ、(必要ならば)訓練をして、離職を防ぐことにつながります。つまり、人事担当者は現段階で、短期的な業績の確保よりも従業員体験を優先した方が賢明だということです。
2. 人手不足に従業員の最適化と自動化で対処
米国の人手不足は一見したところ、大退職時代と同じ流れに乗っているように見受けられます。しかし、米国では、商品やサービスの提供に必要な人材確保の方が、大量退職の問題よりも焦点になっています。2021年7月、米国の求人数は過去最高の1,090万人で、失業者840万人を上回りました。
ハリス氏によれば、人手不足は新型コロナウイルスの世界的感染拡大で、消費者の対応が変わったことを反映しているといいます。
例えば、コロナ禍のピーク時でも、消費者は必要でほしいものを手に入れることができるという実感がありました。電子商取引や非接触型決済といったデジタルサービスやパーソナライズされた体験を通じて、ショッピングは何の支障もなく、オンラインでできるものとして確立されたのです。目下の人手不足の中、消費需要が衰える兆しはありません。
人事担当者は従来、消費需要の高まりに見合う形で採用を増やしてきました。しかし、人手不足が何年か長引く見通しである中、従業員の最適化と自動化を2022年の取り組みとして位置づける必要があります。
製造業の場合、従業員の管理の見直しを迫られました。コロナウイルスの感染拡大が始まってサプライチェーンが痛手を受けたからです。「『従業員にもっと身近にいてもらう必要はあるか』『配送センターを増設する必要はあるか』『流通モデルを一新する必要はあるか』という問いかけをして答えを模索する企業が相次ぎました」とハリス氏は言います。現在、人手不足と消費需要の高まりが相まって、サプライチェーンに影響が出ている業界がいくつかあります。
自分の時間を大切にしたいという労働者側の意識の高まりで、人件費の高騰が続いています。ならば、新規採用をしないで済まそうと考え、製造業をはじめとする業界が自動化のテクノロジーに目を向けています。業務コスト削減の一環です。モバイル端末で注文を受けるレストランが増えていることや、ロボットを使って清掃する店舗が増えていることからも分かります。こうして自動化のテクノロジーは広がっていて、最低限の人手で効率化をはかる狙いです。
「中国やアジア太平洋地域のマーケットでは、製造業の自動化がいっそう進行しています。というのも、離職者よりも、賃上げを求める労働者への対応が求められているからで、その分コストがかかることになるからです。ですから、この状況ですと、自動化の流れは強まるばかりでしょう。米国だけに当てはまる話ではないのです」
経済成長している国で自動化の進行は自然な流れだと、ハリス氏は言います。かつて農業から工業化の時代に移り変わり、今は工業化から知識労働者の時代に変遷しているのです。
「ただ、過去の歴史に照らしても、はるかに速いペースで進行中です。5年、10年単位ではなく、2年単位の動きです。急激な自動化の中、人間の手でしかできないことを忘れてはなりません。イノベーションやマーケット調整がこれに相当し、時間をかけて自動化が進む中、その貴重なチャンスはしっかり生かすべきなのです」とハリス氏は付け加えます。
3. 価値観重視でスキルギャップを克服
仕事で求められるスキルと、従業員の手持ちのスキル。その「ギャップ」はいま、極めて大きなものになっています。すべて、コロナ禍に端を発する変化のペースが加速しているためでしょう。
人と人との間に距離を置くよう求める公衆衛生上のガイドラインのため、企業は仕事の進め方を一新しようとしています。従業員の一部を自宅からリモートで働かせたり、現場勤務の従業員数を制限したりする動きが相次ぎました。消費者の立ち回りが変わったのに対応して新しいビジネスモデルを模索する動きも目立ち、デジタルなどの新テクノロジーをいち早く導入して業界全体が変わる例もありました。
ただ、転換の達成度は、企業によって違っていました。すばやく変化を遂げられた企業は、自社の従業員のスキル面での総合力をきちんと把握していたのです。
Sapient Insightsの調査では、従業員の住所や連絡先といった主要データを自社管理できていると答えた企業が9割に上っていました。ところが、同じ9割の企業が、スキル面など従業員のデータを総合的に把握できていないと答えたのです。
「従業員のスキルセットや、仕事の中身や役割をマニュアルで把握しようとしていて、従業員ごとの役割の重要度の確認作業も手作業でした。データがなかったというわけではないのです。あるべき場所になく、取り込んで組み合わせるのに苦労したということなのです」とハリス氏は言います。
スキルギャップを克服するには、従業員重視の対話が必要で、特に業務を動かす責任者や役員にとっての課題です。コロナ禍の前は、利益や利幅、具体的な業績の数字の価値しか重視しなかったのです。
「結局のところ、彼らは自分たちの持つ時間がどれだけ大切で、その時間を使って何をしたいかをあらためて考え直したのです」
ステイシー・ハリス
CRO 兼 業務執行社員
Sapient Insightsグループ
「『これから取り組むことになる価値観重視の指標はどのようなものか』といった問いかけが、新たな対話の対象になると思うのです。仕事への取り組みの指標だけでなく、従業員の健康状況も踏まえる必要があります。ハードスキルだけではなく、いまやソフトスキルにも目を配らなければなりません。従業員の勤続年数だけでなく、キャリアの経緯も同様です」 とハリス氏は言います。
「こうした指標は、従来の直接指標とは違っていて、役員レベルや業務レベルでは採用されていなかったものであり、しばしば人事部に限って話題になっているだけでした。しかし今後2〜3年の間に、役員や上層幹部たちが取り組むことになりそうだと、私は予感しています」
Sapient Insightsの調査が行われた企業は、テクノロジー投資のトップ5に、人事アナリティクスをあげています。ハリス氏によれば、データを深掘りしてみると、取り組みをはかる指標、従業員計画、意識アナリティクスといった人事アナリティクスを、自社の従業員の把握のために企業側が求めていると言います。従来は、人事アナリティクスへの投資の中心は、データのクリーンアップ、社員構成の把握、業務コスト削減の対象分野の把握などでした。
スキル管理、人材管理を2022年の戦略上の課題に位置づけようとする人事担当者に向け、ハリス氏は計画が完璧に進まなくても、がっかりする必要はない、とアドバイスしています。
「私たちの心構えとして、全員のスキルを取りまとめ、キャリアの土台を構築し、社内の機動力をすべて完璧に機能させなければならないというイメージがあると思います。しかし、私たちのデータから言えるのは、少しでも前進することが、前進が全くないよりはましだということです」とハリス氏は述べます。
4. コロナ禍による職場の環境変化を支援するテクノロジーとツールを持つ
コロナ禍で仕事のあり方が大きく変化しましたが、事態が収束に向かう中でも、職場にもたらした変化はこれから定着していくのでしょうか?
「仕事をする場所の選択や、重要度の高い仕事の判別などが話し合いの中心になっていくでしょう」とハリス氏は言います。Sapient Insights調査によると、調査対象企業の約25%がリモートと出社を組み合わせたハイブリッド方式にすると回答しており、残りの企業は全員がオフィスに完全復帰すると答えています。この調査結果は、コロナ禍の前には勤務時間の5%が自宅勤務だったのと極めて対照的です。「来年は、この2点が中心的なテーマになっていくと思います」
企業経営者たちが、ポスト・コロナの勤務モデルを支援するツールやテクノロジーを議論するにあたって、必要な点があります。従業員たちは自分の時間を大切にしたいと願い、仕事といかにバランスを取るか模索しています。その点も、議論の対象にすべきです。
例えば、融通が利くかどうかは論点のひとつです。経営者は、コロナ禍における仕事のあり方について、柔軟な姿勢を持つ必要があります。それに対応する形で、従業員は柔軟性と「ニューノーマル」(新しい常態)」を求めているのです。
「人事部は職場で融通が利くかどうかについて、イエスかノーかの判断をしがちです。しかし、人事部はその考え方を変える必要があると、私は思っています」とハリス氏は言います。例としては、看護師のような医療分野で、柔軟な対応を取り入れる余地はないように思えるかもしれません。しかし、病院では、看護師が自宅でVPNを使って事務作業をこなせるようにしたり、シフト勤務の編成でもっと融通が利くようにしたりする方式で、これまでより看護師の仕事がサステナブルなキャリアであると感じられるような工夫が凝らされています。これは、通常、時給制の従業員が担う仕事についても当てはまります。スケジュール管理を従業員に任せることは、相互にメリットがあります。従業員と企業がそれぞれ求めるものが、満たされるからです。
「ですから、議論は対象を広げるべきで、『柔軟性として何を提供しうるか』と『従業員に提供できるものの限界は何か』について展開されるべきです」とハリス氏は言います。 人事のワークフローやプロセスによって、従業員が自分の時間について感じる価値がどれだけ高まるかという点も、考慮されるべきです。例えば、人事制度のもとでは、従業員とその上司がセルフサービスのツールを駆使することで、仕事に携わって権限を持てるようになっています。しかし、同じツールを使うことで、上司は自分の時間を思うように使える状況に身を置けないという結果になってしまいます。
「よく耳にするのは、上司が『手に負えない。人事部は何をしているんだ? なぜ私が手当の承認も面接もすべて任され、スキルセットを全面的に管理し、スタッフ全員のスケジュールを承認しなければならないのか?』といった不満です。セルフサービスのメニューを作るにあたって、本来の狙いは柔軟性を高めるだけでなく、時間の余裕が生まれるようにするはずだったという視点が欠けていました」
ハリス氏は続けて言います。「人事担当者のみなさんに自問してほしいことがあります。自分のワークフローや仕事のプロセスについて、『これで求める成果が得られているか。データ活用で何をしようとしているのか。他の人に何を依頼しているのか』といった点についてです。ですから、人事ツールやプロセスの自動化を進めるにあたっては、何が従業員の確認が欠かせないものなのか、確認が必要なタイミングとは、さらにはどうすれば投じた時間からいっそう多くの成果が出せる環境が整備できるのか、ということを考慮に入れたうえでしっかり整合性が取れるようにすべきです」
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