人的資本とは?開示に向けた取り組みのポイントを解説

企業の価値や成長力を判断するうえで、投資家たちは「非財務情報」を重視するようになっています。とりわけ世界的に注目を集めているのが「人的資本」。「人財に対してどれだけ投資しているか」は企業を評価する際の重要な判断材料とされるようになり、わが国の政策も「人への投資」が大きなテーマとなっています。ここでは人的資本経営への取り組み方法と、その情報開示のポイントについて解説します。

1-1. 企業にとって人財は資源・コストではなく「投資の対象」である

企業の持続的な成長と価値向上を考えるにあたって、「人的資本」という概念が重要視されはじめています。人財を「資源」や「コスト」ではなく「投資の対象」として捉えるのが「人的資本」の考え方です。

これまで多くの企業が人財(従業員)を利用すべき「資源」として捉え、個々の企業で人財を囲い込み、育成に取り組んできました。また採用や人財開発・育成にかける予算と時間は「コスト」だと考えられてきました。

しかし、近年、企業を取り巻くビジネス環境が激化するなかで、持続的な成長と企業価値の向上を実現していくためには、経営に必要とされる「ヒト」、「モノ」、「カネ」、「情報」に対する向き合い方を見直すことが求められているのです。「モノ」、「カネ」、「情報」は、「ヒト」に活用されることではじめて資源となりえます。こうした価値観から、企業にとってさまざまな価値を生み出す源泉となる「ヒト」に投資することの重要性が認識されるようになりました。

1-2. 政策面でも「人的資本」の重要度が高まる

2020年1月、経済産業省によって「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」が立ち上げられ、「人材版伊藤レポート」が2020年9月に公表されました。この「人材版伊藤レポート」においても、下記のように人的資本の重要性が謳われています。「ヒトを通じた価値の創出が企業の成長・価値向上の源泉となる」とする提言だといえるでしょう。

"人材を「人的資本(Human Capital)」として捉え、「状況に応じて必要な人的資本を確保する」という考え方へと転換する必要がある"

引用:経済産業省|持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~

また岸田政権は、官民連携による学び直し支援に関して、当初「3年間で4,000億円規模」とした政策を「5年で1兆円」へと拡充する方針を発表しました。さらにデジタル人財育成、リスキリングの推進を重ねて明言していることからもわかる通り、人への投資は、国全体として重要なテーマとなっているのです。

 

2. 人的資本という概念が注目されている背景

人的資本という概念が注目されている背景には、「ESG投資」や、人的資本をはじめとした「非財務情報」に対する世界的な関心の高まりがあります。

2-1. ESG投資

世界の投資家たちは、企業のサスティナビリティ(持続可能性)を評価すべきものと考え、サスティナビリティの改善・向上に寄与する「ESG」の考え方に、近年注目が集まっています。

ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を組み合わせた言葉です。2006年に国連が、投資家にESGを考慮した投資行動を求める「責任投資原則(PRI)」を提唱したことで、この言葉が広まりました。

とりわけ社会(Social)は、企業の持続的な価値向上において不可欠な要素だと認識されています。利益を追求する企業活動の一部が、多様性(ダイバーシティ)の排除、格差、過労死や児童労働といった社会的な問題として注目されてきました。現在では、こうした諸問題を解決し、より豊かな社会を実現するために、人財という側面から行動を見直し、企業としてのサスティナビリティを高めることが求められるようになっているのです。

2-2. 人的資本に関する情報開示ガイドライン「ISO 30414」の公開

ESG投資の高まりとともに、企業に対して人的資本を含む「非財務情報」の開示を求める声が高まりました。そうした中で2018年にISO(国際標準化機構)が発表した世界初となる人的資本に関する情報開示のガイドラインが「ISO 30414」です。

ISO 30414は、企業内外のステークホルダーに対して人的資本に関する情報を開示するための指針といえるもので、情報開示の対象として下記の11領域が設定されています。

人的資本開示基準 11領域

たとえば「コンプライアンスと倫理」であれば、企業に寄せられた苦情のタイプと数、外部とのトラブルなど評価のための指標が細かく定義されており、このように11領域に対し合計58の測定基準(メトリック)が示されています。

また2020年米国証券取引委員会(SEC)は、上場企業に対して人的資本の情報開示を義務化すると発表しました。人への投資とその情報開示は、世界的な潮流となりつつあるのです。

2-3. 日本における人的資本情報の開示に向けた動き

こうした流れの中で、日本においても人的資本の情報開示に向けた動きが急速に進んでいます。

2021年6月、東京証券取引所が発行する「コーポレートガバナンス・コード」の改訂により、人的資本に関する情報の開示・提示が上場企業に求められるようになりました。

2022年8月には内閣官房から「人的資本可視化指針」(後述)が発表されました。さらに11月には、金融庁が「企業内容等の開示に関する内閣府令」などの改正案を公表。2023年3月期以降に決算を迎える上場企業には、有価証券報告書へ人的資本に関する情報の記載が義務づけられることになっています。

2-4. 日本企業に求められる人的資本の開示

こうして株式市場や各省庁が次々に公表する人的資本の開示ルールや開示方針を見ると、日本企業に求められる人的資本の開示項目は「法定開示項目」と「任意開示項目」の2つに分類されることがわかります。

【法定開示項目】

「法定開示項目」は、金融商品取引法で定められた開示項目(財務内容や事業・営業の概要など)です。この法律は日本の上場企業約4,000社を対象とする強制力のある法律で、各項目について全企業が開示しなければなりません。

2022年5月の金融審議会では、有価証券報告書に記載すべき非財務情報として「サスティナビリティ」欄の新設が了承されました。金融商品取引法が改正され次第、この欄に人的資本に関する下記5つの項目の記載が義務づけられる予定です。

人的資本 多様性
人材育成方針 社内環境整備 女性管理職比率 男性の育児休業取得率 男女間賃金差異

【任意開示項目】

「法定開示項目」とは別に、法律で開示が義務化されていない「任意開示項目」があります。ただし「開示しなくても良い」わけではなく、各企業が「戦略的に開示の選択を行う」項目といえます。人的資本の開示に精通する香川憲昭氏(一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム 代表理事)は、任意開示項目についてこう明示しています。

"任意開示は、任意だからなくていいという話ではなく、積極的に取り組んでいただ社内外のステークホルダーの皆様にも有益なメリットがということです"

引用:一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム 代表理事 香川憲昭氏「2023年から始める人的資本開示の重要ポイント」

前述した内閣官房発表の「人的資本可視化指針」では、任意開示項目として下記19の項目が推奨されています。

育成 ❹ エンゲージメント 流動性
❶ リーダーシップ ❷ 育成 ❸ スキル/経験 ❺ 採用 ❻ 維持 ❼ サクセッション
ダイバーシティ 健康・安全
❽ ダイバーシティ ❾ 非差別 ❿ 育児休業 ⓫ 精神的健康 ⓬ 身体的健康 ⓭ 安全
労働慣行 ⓳ コンプライアンス/倫理
⓮ 労働慣行 ⓯ 児童労働/強制労働 ⓰ 賃金の公正性 ⓱ 福利厚生 ⓲ 組合との関係

これら19の開示項目は、国際標準であるISO 30414の内容を強く意識したものになっているといえます。投資に値する企業であるかどうかを判断するための重要なファクターであり、こうした情報を積極的に開示していかないと、投資家からは「そもそも投資対象として見ない」と切り捨てられる可能性も十分にあるでしょう。

投資家から選ばれる企業となるためには、グローバルスタンダードを見据えながら人的資本の情報開示準備や対応を行っていくことが求められるようになっているのです。

なお開示項目のほか、人的資本の情報開示に関する詳細について香川氏が解説したウェビナーは、こちらのアーカイブから確認することが可能です。

 

3. 「人的資本経営」と「人的資本の情報開示」を両輪で進めることが重要

金融庁では「投資家・アナリストが期待する主な開示のポイント」をまとめるとともに、「人的資本への投資に関する開示」の好事例集を公開。オムロン株式会社や株式会社丸井グループ、双日株式会社、カゴメ株式会社などの有価証券報告書を例に取って、開示されている情報の重要度や有用性などについて解説しています。

ESG投資や非財務情報の重視という世界的な潮流の中で、そして国内での法整備・指針の公開を受けて、日本でも大企業を中心に人的資本の情報開示に向けた動きが着々と進んでいることは確かです。

ただし、人的資本の情報開示は投資家から選ばれる企業となるための、あるいはステークホルダーから評価されるための“手段”であって“目的”ではない、という点を肝に銘じなければなりません。本来取り組むべきは、情報開示の手前にある「人的資本経営」です。

経済産業省では、人的資本経営を下記のように定義しています。

"人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です"

引用:経済産業省|人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~

まずは人財の持つ価値を最大化するための戦略の実行=「人的資本経営」がベースにあり、その取り組みの実態や過程・成果をステークホルダーへ公開するのが「人的資本の情報開示」なのです。

また人的資本の情報開示について基本的な方針などを整理した内閣官房「人的資本可視化指針」では、この「人的資本可視化指針」と、人財戦略についての提言である「人材版伊藤レポート」を併せて活用することで「相乗効果が期待できる」としています。

  1. ① 人的資本経営=経営戦略と連動した人財戦略の実行
  2. ② ステークホルダーに対する人的資本の情報開示

①人的資本経営に真摯に取り組むことで、②投資家やステークホルダーに対して訴求力を持つ成果情報を得られます。または②人的資本に関する情報開示を前提として各種施策を策定・実行することで、①人的資本経営の効果的・効率的な実行が可能となります。まさに相乗効果。2つの取り組みを両輪で推進していくことが、企業の持続的な成長と価値向上にとって重要といえるのです。

 

4. 「人的資本経営」×「人的資本の情報開示」のポイントとは?

4-1. 経営戦略と連動した人財戦略の実行

人的資本経営を進めるためには、「経営戦略」と、そのための人財を採用・育成するための「人財戦略」を密接に結びつけることが必須となります。

さまざまな人事施策を、形式的・単独の業務として遂行するのではなく、大きな経営テーマに基づくものとして戦略的に推進していかなければなりません。企業の存在意義であるパーパスや企業理念・ビジョンを始点として、経営戦略、事業戦略、そして人財戦略まで、一気通貫させることが必要不可欠なのです。

こうした大きな視点を持ちつつ、企業ごとに適した方法で人的資本経営を推進していくにあたっては、「人材版伊藤レポート」および「人材版伊藤レポート2.0」が大きな指針となります。

「人材版伊藤レポート」では、人的資本経営を推進する際に経営陣が果たすべき役割・アクションとして、下記の6ステップがあげられています。

「人的資本経営」推進のために経営陣が果たすべき役割・アクション
  1. 企業理念、企業の存在意義(パーパス)の明確化
  2. 経営戦略における達成すべき目標の明確化
  3. 経営戦略上重要な人材アジェンダの特定
  4. 目指すべき将来の姿(To be)に関する定量的なKPIの設定
  5. 現在の姿(As is)の把握、「As is‐To be ギャップ」の定量化
  6. ギャップを埋め、企業価値の向上につながる人材戦略の策定・実行

引用:経済産業省|持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~

まさしく「企業理念から人材戦略まで一気通貫させる」ことが重要だと述べられているのです。また人財戦略に求められるものとしては、下記3つの視点・5つの共通要素が体系的に整理されています。

引用:経済産業省|人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~

これらの実践や具体的な施策、事例については「人材版伊藤レポート2.0」にまとめられています。たとえば3つの視点のうち、「経営戦略と人材戦略の連動」に関しては最高人事責任者(CHRO)の設置、「As is-To beギャップの定量把握」に関しては人事情報基盤の整備(後述)などの重要性が、そして、5つの共通要素においては、「リスキル・学び直し」に関しては組織として不足しているスキル・専門性の特定、「従業員エンゲージメントを高めるための取り組み」としては社内のできるだけ広いポジションの公募制化といった施策の有効性が紹介されています。

4-2. ステークホルダーに対する人的資本の情報開示

人的資本の情報開示に際しては、前述した内閣官房による「人的資本可視化指針」に記載された以下の方法で進めていくことが望ましいといえます。

「人的資本経営」推進のために経営陣が果たすべき役割・アクション
  1. ① 可視化において企業・経営者に期待されることを理解
  2. ② 人的資本への投資と競争力のつながりの明確化
  3. ③ 4つの要素(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)に沿った開示
  4. ④ 開示事項の類型(2類型)に応じた個別事項の具体的内容の検討

① 可視化において企業・経営者に期待されることを理解
人的資本の可視化には、方針や社内環境整備方針の策定が必要であり、目標や指標を検討し、密な議論を行い、最終的に説明することが求められます。その上で、直面するリスクや機会、業績や競争力と関連付けることが重要であり、これらを企業・経営者が理解していることが何よりも重要です。

② 人的資本への投資と競争力のつながりの明確化
人への投資や人材戦略が、自社の経営戦略とどう結びついているのか、その関係性(統合的なストーリー)を構築・明確化することを求めているものです。打ち出した統合的なストーリーをもとに、具体的な開示項目を選択し、③の4つの要素に沿った開示へとつなげていくことになります。

③ 4つの要素(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)に沿った開示
4つの要素は、気候関連財務情報の国際的な開示フレームワークである「TCFD提言」で推奨されている要素です。「TCFD提言」は日本でも多くの企業や公的機関、日本取引所グループなどに支持されており、また有価証券報告書の記載項目としても盛り込まれていることから、企業・投資家の双方にとって馴染みのある開示項目・開示構造といえます。

④ 開示事項の類型(2類型)に応じた個別事項の具体的内容の検討
開示事項の類型とは、具体的には「独自性のある事項」と「比較可能性の観点から開示が期待される事項」を指します。つまり、この2つに分けて開示項目を検討することが求められています。

【独自性のある事項】

自社の経営戦略および人財戦略における“独自性”を効果的にアピールできれば、投資家から選ばれる企業へと一歩近づくことができるはずです。

前出・HRテクノロジーコンソーシアム代表理事の香川氏も、「独自性のある事項」は、投資家にとって企業を評価しやすい観点であることと、重要かつ有益な投資判断の材料となる可能性に触れています。

"競争相手に対して差別性のある戦略をとっているかは非常に重要な判断ポイントになります。

 

外部環境・競争環境・市場環境との兼ね合いの中で、自社オリジナルの経営戦略と人財戦略をいかに表現できているか。

 

この点を上手く取り組めると、投資家としても「あの会社は競合のB社と比べて、将来的な成長可能性がある」と、『独自性』の観点で判断することができます"

引用:一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム 代表理事 香川憲昭氏「2023年から始める人的資本開示の重要ポイント」

【比較可能性の観点から開示が期待される事項】

具体的・詳細な数値で示され、他社との比較が可能な指標も、重要な判断材料として開示を期待されています。香川氏は、ISO 30414では下記のような項目が投資家において比較可能性のある指標になると述べています。

人材育成 組織強化 リスクマネジメント
人材開発・従業員トレーニング 研修時間、研修費用 離職率 エンゲージメント 組織文化醸成のための取り組み 労働災害発生件数・割合 労働災害による死亡数

数値で表せる項目や、ルール・指針と照らし合わせ広く支持されているアセスメントの診断結果などが「比較可能性のある指標」として機能することになります。比較可能性のある指標を積極的に出していく企業が増えれば、投資家にとっては「A社とB社を同じ目線・同じモノサシで比較できる」という環境が整うことになり、投資判断も容易になるはずです。

企業はこれまで説明してきたような各種開示ルール・指針と照らし合わせながら、自社の経営戦略や人財戦略の「何をどう開示するか」を選定し、自社と投資家にとって適切かつ効果的な開示方法を考え、必要な指標やデータの収集を行っていかなければならないのです。

4-3. 人財データベース(統合人財基盤)の構築

人的資本経営において不可欠な要素である「経営戦略と人財戦略の連動」を進めていくためには、企業が目指しているゴールと現在地の差を客観的に把握することが重要です。「人材版伊藤レポート」でも、人財戦略に求められる<3つの視点>として「②As is-To beギャップの定量把握」があげられています。

目指すべき姿(To be)と現状の姿(As is)とのギャップを定量的に把握し、目指すべき姿にたどり着くためのロードマップを描く。そして、人財戦略を策定・実行し、その結果を指標で確認する……。その様子をステークホルダーに対して適切に開示・発信していくことが求められているわけです。

また「人的資本可視化指針」では、指標のモニタリングに関して、DXなどのテクノロジーを活用した「情報基盤の構築」の重要性にも触れています。情報基盤の構築、すなわち人財データベースの整備が、人的資本経営の推進においては肝要となるのです。

多くの企業では、すでに特定の人事業務に最適化されたシステム(ポイントソリューション)が導入されています。特定の業務に特化したシステムは限定的な範囲での業務効率化やギャップの把握には有効であるものの、全社視点・人的資本経営の観点で考えた場合には、効果的でありません。

分断された個々のシステムに対して人的・費用的コストがかかるとともに、場合によっては古いデータや間違ったデータを参照・分析することとなり、その結果として経営判断を誤ってしまったり、戦略的な人事戦略を実践できないという事態につながってしまいます。個別最適化されたシステムを、いわゆるBI(ビジネス・インテリジェンス)ツールで連携させるという方法もありますが、「人的資本経営」と「人的資本の情報開示」を両輪で推進しようと考えるなら、それでは不十分でしょう。

すべての人財データを同じプラットフォーム上で管理(一元管理)できること。すなわち、継続的なデータ収集、欲しい情報へのスムーズなアクセス、各種の集計・分析・フィルタリングなどが可能な人財データベース基盤の構築が必要不可欠です。「人的資本経営」、「人的資本の情報開示」に必須の人財データベース基盤を導入する際踏まえておかなければいけない点については、以下の資料も参考になるはずです。

▶︎ 電子書籍 | スモールスタートの人事システムを避けるべき3つの理由

 

5. データ利用のための仕組み整備+求められるデータの活用力

人的資本の意味や注目されるようになった背景、人的資本経営、人的資本に関する情報開示のポイントについて解説してきました。世界的な流れと、政策にまで「人への投資」が盛り込まれた国内の状況を鑑みれば、すべての企業にとって人的資本経営への取り組みと情報開示は、避けては通れない巨大なテーマだといえるでしょう。

繰り返しとなりますが、人的資本経営も、人的資本に関する情報の開示も、開示のためのデータ収集も、目的化されるべきではありません。真の目的は、投資家から選ばれる企業になること、あるいはステークホルダーから高く評価してもらうことにあります。そのための手段として、経営戦略と人財戦略を連動させた人的資本経営を推進し、経営の実態と成果を情報として開示していくことが求められているのです。

単に人的資本に関する情報を開示するだけなら、これまで通り特定業務に特化したシステム(ポイントソリューション)を用い、それらのシステムで抽出できる限定的な範囲の人財データを活用すれば十分かも知れません。しかし、データの分析結果を自社の人財戦略の源にすることや、投資家やステークホルダーからの信頼を得ることを考えれば、正確かつリアルタイム性の高いデータベースを準備しなければなりません。そこで必要となるのが、統合人財基盤の構築なのです。

企業理念から人財戦略までの一気通貫、効果的な人財戦略の策定と実行、説得力のある情報開示などを実現するためには、以下の4つの仕組みを満たしている人財データベースの整備が不可欠となります。

データ 分析・レポート 人的資本+α 戦略的人事
業務を通じて人的資本に関するデータが自然と溜まり続ける仕組み リアルタイムに見たい軸で分析・レポート可能な仕組み 人的資本+αの情報も多角的に分析可能な仕組み 戦略的な人事になれるための仕組み(オペレーティブな業務からの解放可能な仕組み)

注意しなければならないのは、データはあくまでもデータに過ぎない、という点です。人財データベースが収集・蓄積するデータを、どう活用するか、という視点を忘れてはなりません。さまざまなデータを、いかにして経営戦略と人事戦略の連携=人的資本経営のために活用するか。多様なデータを使って、人的資本経営の成果や自社の独自性をいかにして開示しアピールするのか。そうした活用力・実行力が重要となってくるのです。

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