CHRO は本当に経営に貢献しているか?人事が戦略パートナーになる条件
企業の経営環境が大きく変化し、人的資本経営の重要性が高まる中、人事部門は単なる業務遂行に留まらないHRモダナイゼーションが求められています。本記事では、このHRモダナイゼーションの鍵となるCHROとHRBPの役割に焦点を当て、その現状と課題、そして戦略パートナーとして機能するための条件を深く掘り下げます。
企業の経営環境が大きく変化し、人的資本経営の重要性が高まる中、人事部門は単なる業務遂行に留まらないHRモダナイゼーションが求められています。本記事では、このHRモダナイゼーションの鍵となるCHROとHRBPの役割に焦点を当て、その現状と課題、そして戦略パートナーとして機能するための条件を深く掘り下げます。
皆さんの会社に「CHRO (Chief Human Resource Officer:最高人事責任者)」はいますか? CHRO は経営に深く関与していますか? “C (hief)” がつく役職でありながら、責任範囲が曖昧になってはいないでしょうか。
企業が CHRO を配置することを意識するようになったのは、2023 年 3 月期の有価証券報告書から、人的資本の情報開示が上場企業に義務化されたことが関係しています。人的資本経営を実現するために、多くの企業が経済産業省が公開する「人材版伊藤レポート 2.0 (以下 伊藤レポート)」を参考にしており、伊藤レポートに CHRO
配置の重要性が書かれていたことによります。そのために CHRO の設置は増加傾向にありますが、『人事白書 2025』によると、全企業のうち CHRO を設置しているのはわずか 18.1%。規模の大きな企業 (5,001 人以上) でも約 50%に留まり、中小・中堅企業ではさらに少数です。つまり、多くの企業では CHRO を経営幹部として置いていない現実があります。
CHRO の設置が進んでいないことに加え、CHRO は「機能の定義が曖昧」「後継者育成や育成設計が不十分」という理由から、他の CxO と比べて、経営上の重要なポジションとして十分に認識されていないという課題があります。
では、なぜ日本企業の人事部門はこのような構造的課題を抱えているのでしょうか?その背景には、日本企業の人事領域全体の成熟度の低さがあります。日本企業の人事領域における成熟度ステージは次の 4 つに分類できます。
人事以外のコーポレート機能をみてみると、IFRS対応、グローバル連携会計、レガシーシステムの刷新などの半強制的なモダナイゼーションを強いられたファイナンス、IT は成熟の度合いが進んでいると言えます。一方で人事は 20 年以上前から変わらない制度、業務、考え方を伝統的に続けている企業がまだ数多く、成熟度ステージはJTC あるいは脱 JTC に分類される企業がほとんどであると言えます。
HR のモダナイゼーションが進まない理由の 1 つとして考えられるのは、これまで戦略人事の専門性が不問だったことです。人事経験が長い=業務系の制度運用経験が長いことが多いことから、労務管理、給与管理を専門性として定義づけてしまったのかもしれません。その結果、人事は経営の最重要機能として見なされず、CHRO が配置されても、CFO や CIO に比べて経営に貢献する立場としては低く位置付けられがちとなっているのです。
本当にそれで良いのでしょうか?
人的資本が企業価値の源泉とされる現代において、CHRO が果たすべき役割は決して副次的なものではありません。CHRO が人事のプロフェッショナルリーダーとして本来求められる機能は、経営参画の深化や人的資本経営の推進、データ活用、組織体制の強化、そして発信力の向上などを総合的に進めることです。
なかでも重要なのは、CHRO が経営層と密接に連携し、経営会議や重要な意思決定の場に常に参加することです。これにより、人事の視点から経営課題を提起し、戦略的な提案を行うことで、CHRO の経営参画を深めることができます。また、人的資本を経営資源として捉え、数値で評価・開示する「人的資本経営」を推進することも効果的です。これにより、CHRO の役割は企業価値の向上に直結し、経営における重要性がより明確になります。
その他にも、CHRO 自身が社内外に向けてビジョンや戦略的役割を積極的に発信し、認知度と信頼度を高めたり、ダイバーシティ推進や組織変革、リーダーシップ開発といった経営課題に直結した人事施策を積極的に実施したりすることも、CHRO の役割を経営の重要機能として強化するうえで欠かせません。
CHRO が経営において重要なポジションとして認識されるためには、戦略人事の活動により経営・事業に貢献することが不可欠です。各事業・機能の活動を人事の面から支援する HRBP (Human Resource Business Partner) を設置することで、CHRO の人事戦略が事業と直結し、経営への影響力が可視化されます。
しかし、日本で HRBP を新設する企業の多くが「うまく機能しない」という悩みを抱えています。その最大の理由は、HRBP の役割認識のギャップにあります。
HRBP の設置目的を「人事の面からビジネス戦略を支えるパートナー」としたにも関わらず、実際には従業員対応や業務支援にとどまっているケースが多く見られます。
以下の図は、HRBP の役割に対する「CHRO の期待」「HRBP 本人の理解」「ビジネス側の認識」のギャップを示しています。
このようなギャップを埋めるには、CHRO 主導で HRBP の役割定義を再構築し、ビジネス部門と信頼関係を築いていくプロセスが不可欠です。具体的には、HRBP がビジネスの定例ミーティングに参加し、事業戦略を深く理解した上で、人事の専門性を活かした戦略的提案を行える関係性を構築することが重要です。CHRO のリーダーシップの下、HRBP が真に戦略的な役割を果たせるようになって初めて、人事部門全体の価値向上と経営における存在感の強化が実現できるのです。
CHRO が経営層から真の戦略パートナーとして認められるためには、HRBP による現場での実行体制に加えて、もう1つ重要な要素があります。それがデータドリブンな意思決定です。
従来の人事は、経験豊富な担当者の勘・経験・度胸の「KKD」に頼った判断が中心でした。KKD は必ずしも悪いことではありませんが、経営層に対して説得力のある提案を行うためには、データに基づいた客観的な根拠が不可欠です。
People Analytics (人財データ分析) を活用することで、CHRO は人事施策の効果を定量的に示し、経営に対する ROI を明確にすることができます。これにより、CHRO の経営における地位向上と、戦略人事の実現が可能になるのです。
日本企業の CHRO が経営の中核になれない現状を変革するためには、根本的な意識改革と体制変革が必要です。CHRO は単なる人事責任者ではなく、人的資本を通じて企業価値を最大化する戦略的リーダーとして機能すべきです。そのためには、HRBP による現場での戦略実行、データドリブンな意思決定、そして経営層との密接な連携が不可欠です。
人的資本経営が企業競争力の源泉となる時代において、CHRO の役割は今後ますます重要になります。真の戦略人事を実現することで、日本企業は新たな成長ステージに進むことができるでしょう。
さらに読む
スキルベース人事で人財不足時代を乗り切る。学歴や職歴ではなく、一人ひとりが持つスキルを可視化し、採用・配置・育成に活用することで組織の競争力を高める新しいアプローチを解説。政府の動向から導入ステップ、成功事例まで詳しくご紹介します。
ワークデイが日本国内の大手・中堅企業の人事部門に所属する課長職以上の500名超を対象に実施した市場調査の結果をもとに、人事変革を成功に導くための具体的な方法論を解説します。
AI エージェントが人事業務をどう変えるのか。採用から育成、評価まで自動化し、人事部門を経営のパートナーへと進化させる具体的な方法を解説し、責任あるAI 活用の考え方から導入ロードマップまで詳しくご紹介します。