静かな退職: エンゲージメントとの関係性

「静かな退職」とは、社員の意欲低下というこれまでにも見られた現象に付けられた新しい名前です。静かな退職が企業に与える影響と、社員エンゲージメントを重視することが解決策となる理由をご確認ください。

「大離職時代」の傾向は収まりつつあるのでしょうか、それとも拡大しているのでしょうか。SCE Labor Market Survey によると、米国における転職者数は 2021 年 7 月には 5.9% でしたが、2022 年 7 月には 4.1% に減少しています。しかし、Michael Page 社の『The Great X Report』によると、アジア太平洋地域の社員の 74% が半年以内の退職を検討していることがわかります。McKinsey 社のグローバル調査によると、40% の社員が退職を考えています。この数字は 2021 年から変わっていません。 

では、退職を考えている社員の割合が高いままであるにも関わらず、実際に転職する社員の割合が減少しているのはなぜでしょうか。この難しい問題が、職場で起きている「静かな退職」という現象の中核にあります。 

このトレンドは TikTok のバイラル動画で初めて世界的な注目を集めました。主に若い世代の間で話題になっており、その後に Fortune 社BBC 社などの多くの主要なメディアで報道されました。しかし、「静かな退職」はその言葉ほど単純なものではありません。この言葉からもわかるように、「静かな退職」とは突然ひっそりと退職するのではなく、社員が意識的かつ協調的に仕事の生産性を低下させることです。夜遅くまでオフィスにいることも、週末に E メールに対応することも、自身の職務以外の業務を行うこともありません。社員が静かに退職する際には、必要以上のことをしなくなります。 

「静かな退職」は一見、ブラックな企業文化に対抗しようとする社員にとって、最終的にはメリットをもたらすものだと感じられるかもしれません。職務記述書に書かれた業務のみを行うことを問題にすべきではありませんが、企業が社員にサービス残業について義務感を負わせないようにすることと、社員が必要最低限の業務しかしないことには大きな違いがあります。そこで重要になるのが、社員エンゲージメントに対する理解です。

社員エンゲージメントと静かな退職

Gallup 社の最新レポート『State of the Global Workplace』によると、グローバル ワークフォースの 79% が仕事に対する意欲を失っています。社員が仕事とプライベートをより明確に分けることを求めるのも当然だと言えます。では、意欲的な社員はどのような行動をとるのでしょうか。

意欲が高ければ、社員は職場で積極的に行動します。彼らにとって仕事とは、決まった時間に決まった業務を終わらせるだけのものではありません。企業全体の使命、短期的および長期的な目標と自身の役割との関連性を強く感じているため、参加するプロジェクトに誇りを持っています。リーダーから見守られ、尊重されていると感じ、現在の役割や勤務地を問わず、企業での自身の将来を思い描いています。つまり、業務に全力を注ぎ、エンプロイー ジャーニーのあらゆる段階で企業からサポートされていると感じているのです。

「静かな退職」を新しいトレンドとして受け入れてしまうと、社員エンゲージメントがさらに低下するだけでなく、社員が職務から距離を置く真の理由を見落とすことになります。

一方で意欲を失った社員は、気付かれない範囲で必要最低限の業務を行うことに徹しがちです。御社でも同じようなことが起きているでしょうか。彼らがまだ他の仕事を探し始めていない場合、自身の選択肢を検討していることが多いものです。意欲低下の原因は、マネージャのサポート不足、社員の燃え尽き症候群、個人的なメンタル ヘルスの問題など多岐にわたりますが、エンゲージメント レベルを測定してその低下傾向を認識することで、企業は「静かな退職」がもたらすプライベートや仕事における影響を防止できます。 

Workday でエンゲージメントを測定する際は、支持、忠誠心、満足度、信念という 4 つの成果を探る質問に対して、社員に 0 ~ 10 までのスコアで回答を求めます。これらの観察可能な行動は、仕事にやりがいを感じ、自身の役割で成果を上げている社員に期待されるものです。「静かな退職」を始めた社員から最初に見られなくなる行動でもあります。そのため、エンゲージメント調査は意欲低下を防ぐ最も強力な策として有効なのです。 

世界的な問題である「静かな退職」

「静かな退職」という言葉やそれに関連する話題は最近生まれたように思われますが、意欲低下、燃え尽き症候群、仕事への不満をめぐる問題は古くから存在し、ごく一般的なものです。「静かな退職」を新しいトレンドとして受け入れてしまうと、社員エンゲージメントがさらに低下するだけでなく、社員が職務や責任から距離を置く真の理由を見落とすことになります。ここでは、同じような現象や用語の例を 3 つ紹介します。いずれもエンプロイー エクスペリエンスの質に関する社員の期待に関連しています。 

「退行」と「寝そべり」

2020 年、2 つの言葉を組み合わせた「退行」と「寝そべり」という中国のトレンドが「静かな退職」とほぼ同時に高まり、ニュースでも繰り返し大きく取り上げられるようになりました。「退行」は進化の対極にあります。「996」文化 (朝 9 時から夜 9 時まで週 6 日間働くこと) とは真逆に、「停滞」を積極的に求めるものです。同様に「寝そべり」は、ハッスル カルチャーをまさしく文字通りに拒絶するものです。若い世代は、ノンストップで仕事をすることを求められると「停滞」したくなる傾向があります。 

順法闘争

従来、順法闘争は争議行動の効果的な形態でした。順法闘争にはストライキほどの過激さはなく、従業員は契約に定められた必要最低限の業務のみを行うよう働きかけます。従業員はこの場合、勤務時間中はしっかりと業務を行い、職務記述書にも忠実に従います。このような争議行動は、生産性を低下させると同時に、不当な労働条件を強調することを目的としています。 

「惰性で働く」

「退行」と同様、仕事に満足感を得られず意欲を失った社員に見られる最近の反発行動の一例です。2018 年に英国の 3,000 人の労働者を対象に行われた調査では、その 36% が「惰性で働いている」と感じていることがわかりました。 語源的には「静かな退職」ほどの深刻さはありませんが、この調査では「静かな退職」とまったく同じ意図で「惰性で働く」ことを示唆しています。つまり、「人に見咎められない範囲で努力をし、勤務時間が終わったら帰宅する」のです。 この調査で強調されているのは、調査対象者の「熱意がない」のではなく「目的がない」ということです。 

「静かな退職」への対処法

ジャーナリストの Thea de Gallier 氏は、英国のニュース出版物の意見記事の中で、慢性疲労症候群が原因で静かに退職した自身の経験を述べています。この記事の中で、彼女は「静かな退職」が単なる燃え尽き症候群ではなく、仕事とプライベートの境界線を引くことであると強調しています。「静かな退職」という言葉が広がると、話題性が先行し、微妙な問題について話し合う機会が失われる危険性があります。「静かな退職」に対処するには、社員に生産性の向上を求めるのではなく、社員が抱えている問題に耳を傾け、その問題を解決する必要があります。

社員は機会がなければ声を上げることはありません。社員の働く環境に合わせたツールを使用することが重要である理由はここにあります。たとえば、社員が社外にいるときにスマートフォンを使用したり、日常業務の一貫としてアプリを利用したりできるようにします。簡素化し過ぎることなく、シームレスでパーソナライズされたエンプロイー エクスペリエンスを構築することで、社員はエンプロイー ジャーニーの各段階でフィードバックを提供する機会を得られます。こうすることで、離職リスクの高い社員をつなぎとめることができます。

若い世代は、ノンストップで仕事をすることを求められると「停滞」したくなる傾向があります。

Gallup 社によると、「大離職時代」の傾向が収まりつつあっても、社員の定着率が企業の最優先事項であることに変わりはありません。新たな社員を採用するコストが社員の年収の 2 分の 1 から 2 倍になってしまう場合、これは特に重要になります。2021 年後半に Workday が作成した『組織の大再生: 形勢を一変させて社員の離職を防ぐ』というレポートでは、27% の社員のエンゲージメント スコアが離職の危険性を示していることがわかりました。最近の Workday のレポート『2022 年の燃え尽き症候群リスクを解消する』では、2021 年から 2022 年にかけて分析した 10 の業界のうち 7 つの業界で、社員の燃え尽き症候群リスクのレベルが上昇しているか、横ばいになっていることがわかりました。これらの問題はまだ解決していないのです。ここでは、これらの問題への 3 つの対処法を紹介します。

1.勤務時間ではなく業務のパフォーマンスを重視する

静かな退職の前提となるのは、社員が定められた時間まで作業して帰宅するということです。その中で、残業という職場における迷惑な慣行と闘っています。この勤務時間を重視する慣行が、悪しき前例を生み出します。職場で過ごす時間やログイン時間のみで自身の価値が評価されていると感じると、社員は本当に重要なこと、つまり業務の質や業務をやり遂げる意欲に目を向けなくなってしまいます。

推奨されるアクション:

  • 社員の明確な目標を設定し、その重要業績評価指標 (KPI) が全体的なビジネス戦略や使命と一致していることを確認します。目標に期限がある場合は、割り当てた時間の根拠を明確にします。自身の職務およびパフォーマンスと企業の成功との関連性を理解できないと、社員は意欲を高めにくくなります。

  • 社員が自分に与えられた成長の機会を認識できるようにする一方で、キャリアパスの設定を強制しないようにします。社員が専門能力の開発を管理できるようにすることで、社員の判断を尊重するだけでなく、企業に対する過去および将来のパフォーマンスが重要であることをさらに強調できます。

2.静かな社員が声を上げられるようにする

社員たちが仕事に対する不満についてソーシャル メディアで話している場合は、社内の一連のコミュニケーションに問題があります。静かな社員は意見を持っていないのではなく、生産的な方法で自身の考えを共有する機会を与えられていないのです。「正直であること」は最良の策かもしれませんが、社員は自身の正直な意見が生産的かつ安全な方法で受け入れられていると知る必要があります。 

推奨されるアクション:

  • 社員がエンプロイー エクスペリエンス全般に関する意見を確実に伝えられるようにするため、エンゲージメント調査のような機密性が守られる場を用意します。正直なフィードバックを提供できる心理的な安心感を得ることができなければ、社員は意欲を失い、別の場で自身の懸念を打ち明けようとする可能性があります。 

  • 「静かな退職」は多くの場合、声を上げることは無駄である、または不利益を被る可能性さえあるという考えに根差しています。ライフサイクルの各段階で社員の意欲を高めるには、社員の意見が常に重視されていることを示す必要があります。調査結果に現れたトレンドについては、全社会議、E メール、Slack などのプラットフォームで率直に伝え、その結果として策定された新しい戦略やポリシーについて概要を説明します。また、これらの戦略やポリシーによる成果も明らかにします。 

3.リーダーにアクションの権限を委譲する

多くの場合、マネージャは特定の職務において専門性を発揮することで昇進します。しかしそれでは、リーダーにとって最も重要な「人財の指導」という責務が考慮されていません。リーダーは適切なトレーニングやサポートなしでは問題に対処しにくくなり、ひいてはチーム全体にも同様の影響が生じます。リーダーに権限を委譲することは、「静かな退職」を防止する最も重要なステップの 1 つです。 

推奨されるアクション:

  • リーダーが 1 人の社員として懸念を述べたり、フィードバックを提供できる場を用意したりすることは、マネージャとして社員の意見に耳を傾けることと同様に重要です。エンゲージメント調査を通じて、マネージャがトレーニングや自身に不足しているスキルについてフィードバックを提供できるようにしましょう。また、リーダーがライン マネージャと 1 対 1 で話をする機会を設けることも重要です。 

  • 適切なツールがなければ、リーダーの職務を果たすことは困難です。従業員が新しいマネージャと対面で会うことがない職場では特にそうです。Workday Peakon Employee Voice のようなエンゲージメント プラットフォームを使用すると、リーダーはチームが現在サポートを必要としている重点分野を詳細に把握できるだけでなく、チームのエンゲージメント スコアに基づいておのずとアクションを取れるようになり、的確な一歩を踏み出すことができます。トレンド分析により、エンプロイー ジャーニーにおいてアクションを起こすべき適切なタイミングを特定することで、離職リスクの低減や全社的なエンゲージメントの強化を実現できます。

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