EU の AI 規制: 世界規模での行動の必要性
欧州議会の AI 法案は、世界初となる包括的な AI 規制フレームワークの導入を実現するものです。Workday の公共政策担当バイス プレジデントを務める Chandler C. Morse が最新情報をご紹介します。
欧州議会の AI 法案は、世界初となる包括的な AI 規制フレームワークの導入を実現するものです。Workday の公共政策担当バイス プレジデントを務める Chandler C. Morse が最新情報をご紹介します。
2023 年 12 月 8 日、欧州議会、閣僚理事会、欧州委員会の交渉担当者が人工知能法案 (通称 AI 法案) について政治的合意に達したことを発表しました。この大きな一歩は、人工知能の開発と利用の規制を目的とした、初の包括的な法律の誕生を意味します。
過去 10 年間にわたり AI および機械学習 (ML) 機能の開発と提供を最前線で進めてきた Workday は、AI と ML がお客様ならびに社会全体にもたらす多くのメリットに期待を寄せています。一方で、AI や ML の可能性を最大限に引き出すには、これらのテクノロジーに対する人々の信頼を獲得することが先決であると考えています。
Workday は、AI 政策の方向性を確立する上で欧州連合 (EU) が重要な役割を果たすことを見込んで、2019 年から現在も続く AI 法案制定プロセスに積極的に参加してきました。その間に一貫して重点を置いたのは、効果的な規制要件、将来の国際的協調などを織り込んだリスク ベースの慎重なアプローチの保証です。その甲斐あって、ハイレベル専門家グループの活動や、その後の政府主導の協議に貢献することができました。また、政策立案者と共に法案制定に向けた計画にも携わりました。直近では、トリローグ (3 者協議) の交渉担当者と意見を交わし、基盤モデル (FM) の透明性要件に関する提案を行いました。
リスク ベースの賢明かつ適切な規制を制定することにより、信頼を確立して潜在的な弊害のリスクを軽減しながら、イノベーションを促進することができます。AI 法案の内容は、まさにそれを実現するものです。つまり、AI テクノロジーのプロバイダに一連の要件の順守を義務付け、組織における AI ツールの責任ある利用を促し、規制当局が規則を施行できるようになります。AI 法案で提案している要件は、潜在的なリスクを管理するための合理的な目標をまとめたものであり、その多くは、Workday の倫理的 AI の原則と一致しています。この原則は当社が AI の責任ある開発とガバナンスに取り組む中で長年指針としてきたものです。
大きな動きとして、EU の交渉担当者は、FM と汎用 AI (GPAI) について重要な要件を盛り込み、これらが高リスクのユース ケースに組み込まれる場合に規制要件を課すものとしました。最終的な文面はまだ作成されていませんが、合意内容によれば、FM と GPAI のプロバイダは、下流のプロバイダやデプロイメント業者に対し透明性を提供することが求められます。透明性は FM と GPAI のビジネス利用において極めて重要な要素ですので、最終的な文面がどうなるか期待しています。
合意文書の取りまとめには数週間かかるかもしれませんが、今回の発表によれば、交渉担当者たちはさまざまな入り組んだ問題に対する実際的な解決策を見出したようです。AI 法案により、AI のイノベーションを促進すると同時に、信頼できるテクノロジーの活気ある市場を創出して個人や企業が安心して利用できるようにするという 2 つの目的が達成されることを期待しています。当社は、来年初めの法律制定までこの取り組みに引き続き貢献してまいります。
EU 域内での大きな進展を喜ばしく思う一方で、AI の可能性を最大限に引き出し、責任ある利用を全世界に広げるには、統一された規則と基準の確立が極めて重要であると考えています。政策立案者には、イノベーションを促進する信頼できる AI 政策を策定するために、国家間での運用に適した強力な基盤を築くと共に、国際的な調和を確保するよう求めています。誰もが AI に信頼を寄せられるように、当社は今後も世界中の政策立案者との連携を続けます。
人工知能 (AI) の規制に関する議論が米国で白熱する中、欧州で大きな動きがありました。2018 年に始まった欧州の立法プロセスは、人工知能法案 (AI 法案) の修正案を欧州議会が採択したことにより、この 1 週間で大きな転機を迎えました。これにより、EU の立法プロセスの最終段階である、通称トリローグ交渉の準備が整い、2024 年初頭に欧州初、そして世界初となる包括的な AI 規制フレームワークが導入される可能性が高まりました。
Workday は、AI には人間の潜在能力を引き出す力があると信じています。その一方で、こうしたテクノロジーには成熟した政策アプローチが必要であると考えています。これが AI の信頼を構築する賢明な規制措置を長年提言してきた理由です。AI 法案への関心が高まる中、当社は EU の政策立案者たちと意見を交わし、AI 法案の要件が有意義かつ実行可能なものとなるよう働きかけてきました。
より具体的に AI を定義し、AI のユース ケースに対する合理的な要件を維持し、リスク ベースの慎重なアプローチを推進するという当社の提案が議会の修正案に反映されていることを喜ばしく思います。このプロセスが進展する中でさらなる改良が加えられることを期待していますが、AI 法案が AI の規制に関連した原則について、世界的な合意を促す上での土台になると楽観視しています。
多くの米国議員にとって、テクノロジー政策の策定において欧州が主導的な役割を果たしていることに既視感があるかもしれません。2016 年、欧州はのちに世界のプライバシー規制において重要な役割を果たすこととなるプライバシー法を採択しました。世界中で AI 政策に関する議論が白熱し、またしても欧州が重要な一歩を早々に踏み出そうとしている今、EU による GDPR の可決とその影響から 3 つの重要な教訓が得られます。
議会は行動すべきである。テクノロジー分野のグローバル リーダーである米国は、AI をはじめ、テクノロジー政策の方向性を決定する上で極めて重要な役割を担っています。今のところ、議会は前進しています。米国国立標準技術研究所 (NIST) に AI リスク マネジメント フレームワークの立ち上げを命じ、Workday はこの重要なステップに当初から大きく貢献しました。さらに議会は、政府に時宜を得た助言を行う専門家グループである国家 AI 諮問委員会を設立し、Workday の共同社長である Sayan Chakraborty も個人の立場でメンバーに加わりました。一方、世界各国の具体的な政策についての議論となると、議会の行動の遅れが少しずつ明らかになっていくでしょう。今こそ、有意義な AI 規制措置の必要性に応える法案を可決すべき時です。
国際的な協調が不可欠である。欧州での AI の取り組みについては、欧州との共通の価値観を前提とし、責任ある AI の中核的な要素についてもある程度合意した上で議論を進めてきました。それでも、イノベーターが規制制度の矛盾にさらされるような状況は避けなければなりません。米国はこうした問題に関して、連携を通じた米欧貿易技術評議会の発足や、最近では米国務省サイバー空間・デジタル政策局サイバー大使であるフィック大使の就任の承認など、欧州にある相手国との協調を進めるための措置を講じてきました。Workday は現在、EU と米国間での提言に加え、オーストラリア、カナダ、シンガポール、英国で進行中の、あるいは新たに開始された AI 関連の政策協議に参加しています。AI 政策についての議論は始まったばかりですが、過去の教訓を生かすことができれば、欧州での AI 法案の採択後、驚異的なペースで変革が進むでしょう。こうした背景から、米国は AI に焦点を当てた国際的な協調への投資を拡大する必要があります。
州議会のほうが行動が早い。プライバシー法に関する国会の動きが見られない中、州政府は空白を埋めようと比較的迅速に行動に出ました。AI に関してはこの動きが早くから見られ、例えばニューヨーク市では AI と採用活動に焦点を当てた法律が来月施行される予定です。州や地方単位での動きが必至である中、Workday は、ニューヨーク市のような法制定プロセスで建設的な役割を果たそうと一歩を踏み出しており、サクラメントやオールバニなどの議員とも協議し、効果的で実行可能な規則の制定を推進しています。カリフォルニア州の AB 331 のように、この議論への思慮に富んだ貢献を嬉しく思います。この法案は、影響評価をはじめ、実証済みの真の説明責任手法を取り入れながら、AI 規制にリスク ベースのアプローチを採用することを求めるものです。来年は州からの法案の提出が飛躍的に増えることを期待しています。
欧州議会が AI 法案採択の姿勢を示したことは、世界の AI 政策の現状に待望の変革を起こすための取り組みが終盤戦に入ったことを意味します。テクノロジーについての議論の多くは未来についての議論です。テクノロジー政策における欧州の役割に関しては、過去に目を向けることで、信頼の構築とイノベーションの促進に欠かせない AI 規制措置について調和の取れたアプローチを見出すためのヒントを得ることができます。
そして、この調和の取れたアプローチこそ、今求められているものです。米国の利害関係者と政策立案者はこの波に乗り遅れることなく連携して、責任ある AI 開発の未来を描き、信頼構築と継続的なイノベーションを両立させる法の整備を進める必要があります。
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