企業がAI導入で「人間中心のアプローチ」を求められる理由
AIを戦略的に活用することは、日本企業が課題を乗り越え、持続的に成長していくために欠かせません。しかし、重要なのは単にテクノロジーを導入することではありません。意思決定や説明責任、継続的な管理の中心に人間を置く、人間中心のアプローチが求められます。
AIを戦略的に活用することは、日本企業が課題を乗り越え、持続的に成長していくために欠かせません。しかし、重要なのは単にテクノロジーを導入することではありません。意思決定や説明責任、継続的な管理の中心に人間を置く、人間中心のアプローチが求められます。
日本の労働人口が減少し、世界的に政治的不確実性が高まる中、企業はコストの最適化やROIの最大化、業務効率の向上といったプレッシャーにますます直面しています。こうした課題を克服する「生存戦略」としてDX(デジタルトランスフォーメーション)が注目されていますが、AIツールを導入・活用したからといって必ずしも成功が保証されるわけではありません。成功を収めるには、企業はAI導入における技術面と人間面の両方を十分に考慮する必要があります。本稿では、この両者のバランスを取ることが、企業がAI導入の課題を克服し、従業員の潜在能力を最大限に引き出し、持続的な成長を実現するうえでいかに重要かを説明します。
AIはDXにおいて極めて重要な役割を果たし、企業がデータに基づいて意思決定を行い、全社的に人財を最適化するための強力な基盤を提供します。さらに、パーソナライズされた顧客サービス、リスクの早期検知、従業員体験の向上など、さまざまな分野で競争力強化に貢献します。たとえば、シンプルな顧客からの問い合わせを自動化・効率化するチャットボットを導入すれば、従業員はより複雑な課題を抱える顧客対応に集中できるようになります。
加えて、AIは膨大なデータをリアルタイムで分析し、これまで見落とされてきたインサイトを提示することも可能です。財務部門においては、予算精度の向上、監査性の強化、支出の最適化を支援し、財務機能全体の管理レベルを引き上げることができます。こうした取り組みによって、AIはもはや効率化のための単なるツールではなく、企業全体で従業員を支える不可欠なパートナーへと進化しつつあります。
AIが日本企業にもたらすメリットは大きい一方で、多くの企業は、テクノロジーの導入と従業員への幅広い浸透を進めるうえで課題を抱えています。これらの課題は、多くの場合、以下のような懸念のいずれか、あるいは複数に起因しています。
企業内の各部門が、それぞれ異なるシステムやフォーマットでデータを管理していることは珍しくありません。たとえば、人事部が「Employee ID: EMP001」、経理部が「Employee Number: 001」、営業部が「Staff Code: E-001」といった具合に、同一人物に異なる識別子を使用しているとします。このようにデータが分断されていると、AIが一元化されたデータソースから情報を引き出し、正確な計画や分析を行うことが難しくなります。
AIがその潜在能力を最大限に発揮するには、「クリーンなデータ」を基盤として構築することが不可欠です。クリーンなデータとは、正確でエラーがないだけでなく、すべての部門で一元化され、一貫性が保たれたデータを指します。日本の企業は、ビジネス慣行や意思決定を支える形でデータを整理・標準化し、自社を「AIレディ」にする準備に注力することが重要です。こうした取り組みは、AI導入時の精度を高めるだけでなく、将来的なDXの推進や新しいツールとの統合も容易にします。
AIエージェントがどのように意思決定に至ったのかが不明瞭な場合、たとえば従業員がなぜ特定の答えにたどり着いたのか、どのようなプロセスやデータを使用したのかを理解できない場合、仕事でAIを信頼することは難しくなります。これは「ブラックボックス」問題と呼ばれ、社内でのAI導入を進める上で大きな障壁となり得ます。特に、人事や財務のように人間の判断と説明責任が重要な分野では深刻な問題です。不信感は、AI導入の有効性や長期的な成功を制限する可能性があります。
解決策としては、AIの実装を信頼できるプロバイダーに管理させるとともに、AIがどのように機能し、どのような出力を生成するかについて透明性を確保することが重要です。AIエージェントは人間に取って代わる存在ではなく、業務を強化し可能性を広げるツールです。企業は、AIエージェントが反復的なタスクを自動化し、データ分析を通じて精度と意思決定を向上させ、従業員体験を高めているかを注意深く確認する必要があります。結局のところ、AIエージェントがビジネスのニーズと合致せず、その仕組みを説明できない場合には、慎重な対応が求められます。
多くの企業は、AIエージェントに機密データを使用させることに慎重になっています。なぜなら、そのデータがAIモデルの学習(トレーニング)に使われると、知らないうちにその情報が競合他社に見られてしまうリスクにつながるのではないかと心配しているためです。また、IT部門による適切な監視なしにAIエージェントを導入・使用することもリスクとなります。だからこそ、AIエージェントのセキュリティ、説明責任、コンプライアンスに関する堅固なガバナンスフレームワークを社内に確立することが不可欠です。このフレームワークには、データプライバシーポリシーやセキュリティプロトコル、AIエージェントの倫理的な運用に責任を持つ個人やチームへの説明責任が含まれるべきです。
さらに、包括的なガバナンスフレームワークを整備するだけでなく、従業員が責任を持ってAIを使用できるよう、適切なガイダンスとトレーニングを提供することも重要です。これには、AI使用に伴う潜在的なリスクや倫理的配慮に関する教育、AIをいつ使用すべきか、または使用すべきでないかを示す具体的なシナリオの提供が含まれます。継続的な教育は、ガバナンスフレームワークを日々の業務プロセスに組み込み、従業員がリスクを管理しながら、それぞれの役割でより効率的に業務を遂行できるようにする助けとなります。
グローバルに事業を展開する企業にとって、AIの導入は単なる技術的課題にとどまりません。各国のAI関連法規や規制を常に順守する必要があるのです。たとえば、欧州の「AI法」や米国の「AIに関する大統領令」など、法整備が進んでいます。これらの規制は、AIの運用において高い透明性と明確な説明責任、そして強固なリスク管理体制の構築を企業に求めています。
一方、日本ではAIガバナンスに関して比較的緩やかなアプローチが取られています。ただし、潜在的なリスクを認識しつつ、イノベーションや開発を支援することを目的とした新たなAI法案が国会で審議中です。この法案は、まったく新しい枠組みを設けるものではなく、既存の法律やビジネス上の協力関係に基づき、AI技術の運用を規制する内容となっています。また、企業が有害な方法でAIを使用している場合には、政府が助言を行い、適切な改善策を示す権限を持つ可能性があります。
これらの課題の根底には、DXの一環として組織変革を推進し、従業員全体が将来に向けて「AI-readyな企業」へ移行できるようにする必要があります。そのためには、経営層の強いコミットメントが欠かせません。また、現場のマインドセットの変革も同時に求められます。さらに、従業員のリスキリングや、タレントの配置など人事戦略との連動も重要です。企業が現在の働き方を見直し、何を変えるべきかを明確にしなければ、AI導入は成功しません。
これは簡単なことではありません。多くの場合、従来のシステムから移行するための知識や経験を持つ人材が不足しています。さらに、既存の業務に慣れ親しんでいたり、「今のやり方で十分だ」という考えが根付いていたりすることから、チーム内で業務プロセスを見直し、新しい技術を導入することに抵抗が生まれます。
こうした課題に対処するには、企業は人間中心のアプローチでAIを導入する必要があります。このアプローチにはいくつかの基本原則があり、企業がAI導入において常に人を中心に据えるための指針となります。
AIはあくまで人間の意思決定を支援するものであり、置き換えるものではありません。そのため、AIを活用する際には、最終的な判断を必ず人間が行うことが重要です。これにより、AIがどのようなデータやプロセスを用いて出力を生成しているのかが分からず、従業員が理解できない「ブラックボックス」問題を回避できます。人間が最終判断を下すことで、AIシステムの運用がいつ、なぜ、どのように行われるかについての透明性が確保され、従業員や顧客、パートナー、規制当局など、すべてのステークホルダーに説明できるようになります。
AIの各段階における判断について、社内の誰が説明責任を負うのかを明確に定めたプロセスを持つことは、人間中心のAIにおいて非常に重要です。役割と責任を明確にすることで、安全性やセキュリティの強化につながり、不公平や偏見、差別的な影響の発生・拡大を最小限に抑えることができます。また、従業員が自身の業務フローにおけるAIの役割を戦略的に理解し、AIの出力が持続可能な形でビジネス目標を支えているかを確認できるようにすることも可能になります。
AIモデルや法規制は常に進化しているため、一度きりの対応ではAI導入の成功は保証されません。人間中心のアプローチを取ることで、従業員がAIの出力や結果を継続的に監視・評価し、変化するニーズや規制要件に応じて調整できる柔軟な体制を構築できます。人間がAIの運用を監視・管理することで、予期せぬリスクの発生を防ぎ、問題が生じた際には迅速に対応できる仕組みを整えることが可能になります。
人間を中心に据えたAIは、企業における人財の可能性を引き出すだけでなく、データの分断、AIのロジックへの不信感、ガバナンスへの懸念、規制順守といったAI導入における多くの技術的課題の解決にもつながります。これにより、技術面と人間面のバランスが取れた環境が整い、企業は安心してAIを活用できるようになります。
このテーマについてさらに詳しく知りたい方は、5月29日に開催された「Elevate Tokyo」のオンデマンドページをご覧ください。セッション動画が公開されています。
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